ミクロ経済学特講2009

出典: Hnami.net

版間での差分
(何と何が同質なのか)
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 中小小売店やその団体は、他店で安売りがあると、メーカーや卸に苦情を言います。大手チェーン以外の販路も切り捨てられないと考えるメーカーは、その苦情を聞き入れて、小売店間の価格差が大きくなり過ぎないようにいろいろな手段をとります。あからさまに取引停止などをテコに値下げをしないよう要求したりすると独占禁止法違反になりますから、もっとマイルドな手段しか取れません。
 中小小売店やその団体は、他店で安売りがあると、メーカーや卸に苦情を言います。大手チェーン以外の販路も切り捨てられないと考えるメーカーは、その苦情を聞き入れて、小売店間の価格差が大きくなり過ぎないようにいろいろな手段をとります。あからさまに取引停止などをテコに値下げをしないよう要求したりすると独占禁止法違反になりますから、もっとマイルドな手段しか取れません。
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 メーカーのライバルは他のメーカー(ブランド間競争)であり、小売店のライバルは他の小売店(ブランド内競争)です。小売店はどのメーカーの製品が売れてもよいのだし、メーカーはどこの小売店が自社製品を売ってくれてもよいのです。小売店は赤字の目玉商品(ロス・リーダー)を作って他の小売店から客を引き寄せ、他の物もついでに買ってもらうことで採算を取ろうとすることがありますが、
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 メーカーのライバルは他のメーカー(ブランド間競争)であり、小売店のライバルは他の小売店(ブランド内競争)です。小売店はどのメーカーの製品が売れてもよいのだし、メーカーはどこの小売店が自社製品を売ってくれてもよいのです。小売店は赤字の目玉商品(ロス・リーダー)を作って他の小売店から客を引き寄せ、他の物もついでに買ってもらうことで採算を取ろうとすることがありますが、そんなことを許せばそのメーカーの製品はどの小売店からも値引きを要求され、メーカーが保ちません。価格を維持するためには、メーカーは販路を絞り、できるなら取引小売店や取引卸が競合他社製品を扱わず、ブランド内競争を刺激しないことを望みます。流通系列化は多くの産業でみられますが、メーカーは卸や小売店をひきつけておくために大きな費用負担を強いられます。
=== 国境を越える人々 ===
=== 国境を越える人々 ===

2009年1月17日 (土) 03:13の版

目次

このページについて

これはH21(2009)年度夜間後期開講、ミクロ経済学特講の講義ノートです。

講義のテーマ、進行方法など

 この講義は、講義中に話し合うこと、考えをまとめて文書に書くことを重視します。いくつかの(単純な)ミクロ経済学のモデル中に現れる合理的行動が、いろいろな市場でどのように現れるかを考えていきます。

 講義のテーマは、最近世界経済で猛威を振るう「グローバリゼーション」です。世界がひとつの市場につながってしまったことによって、誰にとっても得をした面と損をした面があります。それらはなぜ起こったのでしょうか。


講義内容

基本原理

  • 裁定と一物一価の法則

 経済合理的行動をする人が、ひとつのものに別の場所で(あるいは別の売り手・買い手によって)2種類の価格がついているのを見つけたとします。安いほうから買って高いほうに売れば、差額を手に入れることが出来ます。こういう取引を裁定といいます。

 すべての裁定機会が抜け目なく利用されると、その結果、ひとつのものにはひとつの価格がつくはずです。これを一物一価の法則といいます。

  • 規制と資源配分のゆがみ・ムダ

 市場メカニズムの働きを政府が邪魔しないことを主張する人たちの根拠は、大きく分けてふたつあります。ひとつは、取引価格や数量への制限、取引の禁止、あるいは特定の取引だけへの課税が資源配分のゆがみやムダを生むからです。

 例えば京都府だけが「深夜コンビニ営業」を禁止したとします。大阪・奈良・滋賀などの府県境に開店しているコンビニは越境客でにぎわうでしょう。深夜に営業しているファミリーレストランの売店は客が増えるでしょう。軽トラックで行商を試みる業者が出現するかもしれません。いずれにしても消費者は、今までと同じものを得るために交通費や時間を余計に使い、不便を感じます。

 実際に起こった、多くの受講者に身近な例は、TASPO導入でしょう。この政策はまったく正当な(ただし経済的なものではない)目的を持っていましたが、自動販売機に頼っていた煙草小売店とコンビニエンスストアのバランスを大きく変化させました。自動販売機という販売手段を利用するための諸費者にとってのハードルが上がったことで、煙草を買える場所は減少すると予想されます。

 いずれの場合も、特定のタイプの取引を制限することで、誰かに余計な費用が発生し、限りある生産要素(モノに限らず、時間なども)がそれに使われます。

「資源配分のゆがみ」は、例えば国産農産物を保護するために、農産物輸入を禁じた場合に起こります。輸入禁止がない場合よりも、国産農産物は余計に作られるはずです。ただし国民は割高なものを買わされますし、もっと安く農産物を作れるはずの国や地域は、作っても買ってもらえないので生産能力を生かせません。国内で農産物生産に使われる労働や資材を外国へ持って行って生産に使えば、同じだけ生産してもまだ余るでしょう。余った分は、現在はムダに使われている、ということになります。

 資源配分のゆがみは、「余分に作られるもの」や「売れないので少ししか作られないもの」ができるので、結局せっかくの生産要素を活かしきれず、ムダにつながるのです。

 もうひとつの根拠は、競争を制限すると独占企業の中でムダが放置され、その余計な費用は結局消費者や納税者が払うようになることです。

  • 規制の網を乗り越える

 いまの話にも出てきましたが、規制があると、それを乗り越える方法を工夫する人が現れます。そのことによって、規制の実効は上がらず、規制を乗り越える工夫が余計な費用を生むだけ、という結果もありえます。

 例えば1988年まで、日本は国内農家保護のため、牛肉輸入量を制限してきました。ところが、生きた牛の輸入は制限されていなかったので、輸送機で生きた牛を日本に輸入することが行われました。もちろん、食べられる部分だけを日本に輸入するほうが輸送費は安上がりです。

 企業に余計な費用をかけさせる結果を承知のうえで行う規制もあります。自動車が典型的ですが、国内産業を育てるため、完成車に自動車部品より高い関税をかけ、国内で組立作業を行うよう政府が企業を誘導することはよく行われます。少なくともその国の自動車産業が発展するまでは、わざわざ効率の悪い工場で組立作業を行うことになります。

 こうした規制は、短期的な経済効率を犠牲にして、別の政策目標(例えば長期的な産業発展)を追求するものです。ですから、「デメリットに見合ったメリットがありそうか」が問題になります。

  • 規制主体(政府)には国境がある、企業には国境はない

 2007年~2008年のサブプライム危機を根深くしたのは、タックス・ヘイヴンに多くのファンドが置かれ、それらのファンドを欧米の規制当局が直接把握できないので、「誰がどれくらい損しているのか互いにわからない」ことでした。実際に救済に乗り出せるのは税源を持った各国政府しかなく、ECにも加盟せず独自の金融立国を目指したアイスランドは孤立無援に陥りました。

 取引で利益を得る可能性がある限り、実質的には市場はどんどん広がっていきます。企業もそれにつれて多国籍化したり、多国籍で提携を結んだりします。国家の規制を離れた市場が思わぬ疑心暗鬼に陥り、誰にも手の打ちようがない事態をもたらしたのが今回の問題でした。かといって、国家の力では取引全体を把握・規制することも不可能なのが現状です。

  • 契約自由の原則

 契約自由の原則は主に私法(民法)の言葉ですが、経済活動の大前提でもあります。人や企業は、原則としてどんな契約でも自由意志で結べる、というものです。これが満たされない世界は、政府が徳政令で私人間の契約を無効にしたり、契約を履行させる民事手続を提供しなかったりする世界です。確かに「後から見れば好ましくない」取引はあるのでしょうが、それを個別に政府が否定・修正することを認めると、安定的な経済活動の基礎が崩れてしまいます。


財の貿易

  • お前は確かにいい仕事をするが、世界じゃ二番目以下だ

「グローバリゼーション」を短く説明すると、「世界がひとつの市場になってしまうこと」でしょうか。貿易制限や関税を互いに取り払う努力と、1980年代~90年代のソビエト・東欧社会主義政権崩壊、そして中国の開放政策の結果、政策的に切り離されていた市場が減り、どこのものでも自由に買えるようになりました。

 言い換えれば、同じものなら、世界で一番安いものだけが売れ、いままで売れていた「世界じゃ二番目以下」のものは売れなくなるということなのです。

 日本でも1990年代以降、多くの軽工業製品(例えば漆器)、そしてもちろん食品が外国製品との競争に負け、販売量や販売額を減らしました。

 市場メカニズムは既得権を保護しません。アメリカの家電メーカーなんて聞いたことがありますか(もちろんあることはあるのです)? 日本が家電製品や自動車を輸出し、自分の石油代金を払えるようになるまで、世界中でライバルと戦い、ライバルが成長する芽を摘んできたのです。

  • 安く作れば安く売れる

 よく「中間マージンを抜くから安い」と宣伝している業者がいますが、卸や小売店も競争していますから、「何もしないで稼いでいる部分」はあまり残っていないのが普通です。もし残っていたら、それは政治的な問題で参入が制限されているケースで、競争を仕掛けることそのものが難しいでしょう。

 安く売るための基本は、安く作ることです。多くの場合、賃金が一番安い国で作ることです。労働もまた、市場メカニズムに乗ったサービス(形のない有価物)なのです。一番安い労働だけが売れますから、賃金の安い国が世界市場に参加してくるたびに、世界中の賃金がそれによって下落圧力を受けます。

 アメリカでは非正規雇用全体を指してコンティンジェント(条件付)雇用と呼びます。多くの国で非正規雇用が広がり、実質的な賃金切り下げが起きています。

  • ソシアル・ダンピング

 1930年代、世界に先駆けて世界大恐慌から回復しようとした日本は、安価な綿製品をインドに輸出したことでイギリスの反発を招きました。日本は国全体をわざと低賃金にして輸出価格を下げている、という批判が寄せられ、ILO(リンクしている報知新聞記事では現在と異なり、国際労働局と訳されています)から現地調査が行われる事態になりました。こうした対立が繰り返され、各国が自国通貨経済圏外からの輸入に高率の関税をかける事態となり、第二次大戦へとつながっていきました。

 だからグローバリゼーションを推進する自由貿易の考え方は、取引から締め出される(貧しいままに置かれる)国を作らないことが世界の安定に必要だ、という政治的な考慮からも支持されて来ました。それだけ、グローバリゼーションによる損得勘定は複雑であると同時に、戦争につながるほどの死活問題であり続けてきたのです。

神戸大学電子図書館 新聞記事文庫 日本(25-119) 報知新聞 1934.10.7(昭和9) 「ソシアル・ダンピング日本には存在せぬ モーレット氏の終結的報告」

法政大学大原社会問題研究所 大原デジタルライブラリーより『日本労働年鑑 第65集 1995年版』「第一章 ILO創立から日本の脱退まで(一九一九~一九三八年)」

 中国の人民元レート問題も、こうした文脈で見れば古い問題の再登場です。中国は人民元と外貨の交換を当局がコントロールし、巨大な貿易黒字で得た外貨をそのまま政府の外貨準備として蓄積し続け、ついに世界一の外貨準備を持つに至りました。特にアメリカは、中国が人民元レートを切り上げ、輸出を抑制して貿易黒字を減らすよう断続的に要求しているようです。

In late 2006, Mr. Paulson invited Mr. Bernanke to accompany him to Beijing. 
Mr. Bernanke used the occasion to deliver a blunt speech to the Chinese 
Academy of Social Sciences, in which he advised the Chinese to reorient 
their economy and revalue their currency.

"Chinese Savings Helped Inflate American Bubble" Published: December 25, 2008, NYTimes.com(ニューヨーク・タイムズ紙)

ばらされる財(産業内貿易)

  • ドリームチームとしての工業製品

 例えばHDD磁気ヘッドのTDKのように、特定の部品でシェアの高いメーカーはいろいろな産業にあります。それを国際的に集めて、トータルで一番安上がりな製品作りを完成品メーカーが競い合っているのが現状です。

  • 高付加価値製品への傾斜

 例えばCD-Rは日本で開発された製品です。主要な生産国は台湾ですが、CD-Rに塗る磁性体は主に日本製です。いちばん高い技術を要する部分だけが日本国内に残っているわけです。

  • 韓国の対日貿易赤字はなぜ大きいか

 韓国は高い技術を要する部品や高度な工作機械の多くを日本から輸入しています。韓国が輸出で好調になるほど、日本からの輸入が増える構造が、韓国の外貨準備が増加しない原因になっています。

  • モジュラー型生産方式と労働問題

 自動車部品を完成車メーカーが買って組み立てる場合に、従来より大きい単位まで組み立てたものを買う(例えばフロントパネルと計器類を別々に買うのでなく、フロントパネルに計器類を取り付けた状態で買う)傾向があり、これをモジュラー型生産方式といいます。

例えば造船の「ブロック工法(block assembly)」や標準建材を汲み上げるプレハブ住宅は、モジュラー
型生産システムより長い、50年以上の歴史を持ちます。モジュラー型生産システムがどれくらい新しい
概念であるかについては、議論があります。

 モジュラー型生産方式が従来より広く見られるようになった原因はいくつか考えられていますが、そのひとつは、高賃金で強力な労働組合を持つ完成品メーカー労働者の仕事を、より低賃金なサブアセンブリ(中間的な組み立て)メーカーの労働者でなるべく多く置き換えるためだと言われています。

従来から自動車部品には、大きく分けて次の3種類があるといわれて来ました。
-承認図部品 完成車メーカーの仕様書に会うよう、部品メーカーが設計図を描く。
-貸与図部品 完成車メーカーが設計図を描いて渡し、部品メーカーはその通りに作る。
-市販品 自動車以外にも使われる部品や材料。その分野の専門メーカー(大企業も多い)から購入する。
日本の承認図部品メーカーは開発段階から完成車メーカーにパートナーとして選ばれ、秘密を共有しつつ
共同開発に関わって来ました。その中で最大のものはトヨタに空調部品・エンジンプラグなどを提供する
デンソーで、燃費向上や環境基準達成にとって決定的に重要なトヨタのガソリンエンジン制御システムには
デンソーの技術が貢献しています。フォードやGMが1990年代に部品生産部門を別企業に分離したのは、
こうした技術開発パートナーを育てるためだったのでしょう。ただしその後のビッグスリーを襲った
業績低迷で、どちらの子会社も経営は思わしくありません。
  • 安い部分は安いところから

 ひとつの財を複数の部品に分け、それぞれ一番安いところから買うことはよく行われています。同じ財であれば、トータルで最も安く生産できる企業が価格競争に勝ちます。

 日本国内の工場が「安く作る」面で外国工場に負けるなら、海外にない高い技術を必要とする高付加価値製品を日本に残し、それ以外は外国工場から買うようにしないと、日本製品が海外製品に価格面で負けてしまいます。問題は、そうした高付加価値工場の仕事が、日本人の多くを雇うほどにはないことです。

何と何が同質なのか

  • ベルトラン競争と品質差別化

 例えば限界費用cでいくつでも生産できる財があったとします。同じ生産技術を持つ企業同士が競争すれば、市場価格はcになるまで値引き合戦となります。たとえ正の固定費用がかかる財でもそうなりますから、利潤はゼロかマイナスになってしまいます。こうした「限界費用一定」の2企業価格競争を特にベルトラン競争といいます。

 こうなってしまったらどう企業努力を重ねても利潤はゼロ以下ですから、そういう状況に陥らないように多くの企業は努力します。つまり「自分の財は他社の財とは別種の製品だ」と消費者にアピールして、他社より少し高くても納得して買ってくれるよう努力するのです。「品質とは何か」と考え始めるとそれだけで半年くらい講義できてしまいますが、そこは考えないことにして、他社と異なる品質の製品を生産することを品質差別化といいます。

 別の言い方をすれば、品質差別化とは「自社製品の市場を類似品の市場から切り分け、できるだけその市場の独占企業に近づく」ということです。一物一価の法則が働く市場メカニズムの下で、違う価格を得ようと思ったら、違う市場の違う財にしてしまうしかないのです。

  • ブランド化戦略と無数のシカバネ

 自社ブランドを認知してもらえば価格競争から部分的に抜け出せます。完全には抜け出せませんが、少しノーブランドの製品より高くても、消費者が認めて買ってくれます。

 農産物の産地ブランドを含めて、「他社とは違う・他産地とは違う」ことをアピールする試みは常に、無数の企業や団体によって行われていますが、価格差をつけても売上が激減しないほどの肯定的な認知に成功する例はその一部です。作る側は差をつけたつもりでも、買う側がそんな点を評価しなければ、高い価格の製品を買いません。

 近所のスーパーマーケットへ行って、生卵の売場を見るのが、この話を実感する一番簡単な例でしょう。一番安い卵は10個200円くらいで、一番多くのパックが並べてあるのは、その一番安い卵だと思います。もっと安い価格で「おひとりさま1パック限り」の特売をしているかもしれません。それを目当てに店にやってくるお客が、他の物も買っていくことをお店は期待しているのです。

 それほどパックが並んでいないけれど、値札・名札が大きくて、目立つ場所においてあるのが、10個250円くらいの卵(のうちひとつのブランド)だと思います。「このくらいの価格差ならアピールすれば売れる」とお店が考えているのでしょう。

 そして、もっと高い価格の卵も並んでいるはず。「大きい」「新鮮で安心」「栄養価が高い」「特に卵のおいしい品種から生まれた」などというアピール点がパックや値札・名札に書いてあるでしょう。いくつかのブランドは、テレビなどで宣伝もしています。あなたが消費者として魅力を感じる程度は様々でしょう。魅力が小さければ、わざわざ高い卵は買わないでしょう。

  • プライベートブランド、ダブルブランド

 特定の小売チェーンにしか置かない約束で小売チェーンが作ってもらっている商品をプライベートブランドといいます。コンビニチェーンにはたいてい、そのチェーン専用の商品がたくさんあります。

 他のお店に売れなくなることは、売れ残りリスクをその店(とメーカー)が全てかぶることになります。しかし「違うもの」と認知されれば、小売チェーンも他のライバルとの価格競争から逃れることができます。

 アメリカでは「メーカーや卸が大手チェーンにだけ安く販売すること」が日本より厳しく禁じられています。しかし違うものに違う価格をつけることは禁じられていないので、日本よりも早くからプライベートブランドが広がりました。つまり大手チェーン専用の製品を作ってもらって、それを安く売ってもらうのです。だからアメリカの規制は、中小小売店が大手チェーンと競争するうえで、期待されたほどには助けになりませんでした。

 メーカーが同じような製品をわざと別ブランドで売ることもあります。安売りをうたう大手チェーンで安く売っていることがわかると、もっと小さな店で高い価格を払っている消費者がそっちに行ってしまうからです。また、「他店より一円でも高ければ値引き…」とうたっているような家電量販店では、メーカーにそのチェーン専用の商品を作ってもらい、他店との比較を免れることがよく行われます。あくまでこれは部分的なものですが、チェーン限定商品が目立つ位置におかれていることもよくありますから、利益面では売上比率以上の比率で貢献しているのでしょう。


  • メーカーの思惑、小売店の思惑

 中小小売店やその団体は、他店で安売りがあると、メーカーや卸に苦情を言います。大手チェーン以外の販路も切り捨てられないと考えるメーカーは、その苦情を聞き入れて、小売店間の価格差が大きくなり過ぎないようにいろいろな手段をとります。あからさまに取引停止などをテコに値下げをしないよう要求したりすると独占禁止法違反になりますから、もっとマイルドな手段しか取れません。

 メーカーのライバルは他のメーカー(ブランド間競争)であり、小売店のライバルは他の小売店(ブランド内競争)です。小売店はどのメーカーの製品が売れてもよいのだし、メーカーはどこの小売店が自社製品を売ってくれてもよいのです。小売店は赤字の目玉商品(ロス・リーダー)を作って他の小売店から客を引き寄せ、他の物もついでに買ってもらうことで採算を取ろうとすることがありますが、そんなことを許せばそのメーカーの製品はどの小売店からも値引きを要求され、メーカーが保ちません。価格を維持するためには、メーカーは販路を絞り、できるなら取引小売店や取引卸が競合他社製品を扱わず、ブランド内競争を刺激しないことを望みます。流通系列化は多くの産業でみられますが、メーカーは卸や小売店をひきつけておくために大きな費用負担を強いられます。

国境を越える人々

 外国人労働者問題

 アメリカのコンティンジェント労働-そしてみんな派遣になった-

 労働における先任権と荒れる若者

 高く売れる労働とは

 欧米人には働き蜂はいないのか

為替レートはなぜ動く

フローアプローチとマネタリー(ストック)アプローチ

円キャリー取引

アメリカの高金利政策

産業保護の現実

 ECの農業保護

  フランス、アメリカ、発展途上国

 ローカル・コンテンツ法

 WTO

非経済的な結びつきを加えた取引・交換

地域通貨

産地直売

フェアトレード

緑のオーナー

取引への社会的規制(1)

下請け関係と優越的地位の濫用(日本独禁法)

独占的地位の濫用(EC独禁法ないしローマ条約第82条)

誠実法(アメリカ州法)

取引への社会的規制(2)

百貨店法と大規模小売店舗法(すでに廃止された日本の法制度)

日本の中小小売店・中小飲食店は何と競争をしてきたのか、何と競争関係にあるのか

社会主義はなぜ行き詰ったか(非市場的資源配分)

行列と転売

 不足の政治経済学

権限とサイド・ペイメント

非市場的な情報収集の限界-ノルマと在庫-

なぜダフ屋・転売屋は規制しきれないか


企業の資金調達(1)

 間接金融から直接金融への流れ

 証券化とリスク分散

 格付

企業の資金調達(2)

 昭和日本の低金利政策

 歩積み両建て

 不動産担保と業績評価・利益予測

 ベンチャーキャピタルの性質

2008年9月危機はなぜ起こったか

 誰も総額がわからない

 ファンド

 中国・中東の貯蓄余剰

  なぜ中国では貯蓄が積み上がるか、誰がなぜ貯蓄をしているのか

  アメリカに集まった資金は何に使われていたか

反グローバリゼーション、保護貿易、ブロック経済

 昭和初期の教訓

 資源外交

どこに入れるか検討中のトピックス

  • SPAと開発輸入-原価管理から原価企画へ-

 原価企画という言葉があります。原価管理は伝統的には、「あるものを作る原価を調べて、それ以上の無駄を出さないこと」でしたが、原価企画は「目標原価内で作るために、設計図そのものに工夫を加える」ことを言います。別の言い方をすれば「安く作れるものを開発する」のです。物流、宣伝などあらゆるサービスが専門業者によって切り売りされるようになってくると、ライバルとの価格差は製品自体の差でしかつかない、という現実がその背景にあります。生産性工学では「価値工学(VE)」という原価低減の工夫がもっと古くから体系化されていましたが、その考え方を原価管理にあてはめたものとも言えるでしょう。

 日本は1980年代まで、原材料ばかり輸入して製品輸入をしない国として、貿易不均衡の文脈では悪評がありました。プラザ合意による急激な円高で、海外製品の輸入が有利になりましたが、日本製品に慣れた消費者をひきつけるには、外国製品を日本風にアレンジする必要がありました。開発輸入というのは当時さかんに使われた言葉で、日本向け仕様の製品を新たに開発してもらって輸入することを言います。極端な例としては、コンビニキャッチャーの景品(特にぬいぐるみ)についたタグを見るといいでしょう。ほとんどが中国製ですが、どうみても中国にもともとあったデザインには見えませんよね。

 SPAというのはアメリカのギャップ社が自分たちの理念を説明するために作った言葉で、製造型小売業と一般化して使っている人たちもいます。「自分たちの企画した衣料品をもっぱら売る小売業」とでも訳せばいいでしょうか。他店でも売っている商品は仕入れないのがポイントです。ユニクロはSAPですし、衣料品ではありませんが無印良品も製造型小売業ですよね。

 自社でしか売らないのですから、売れ残りリスクは自分持ちになりますし、大量に作って規模の経済を発揮させることも困難です。ただ最近はJIT生産(売れる直前に要るだけぎりぎりの量を作る)でもコストが上がらない方向へ生産技術が進歩したので、規模の経済そのものが小さくなった産業も多く、自社限定ブランドなら他店の安売りから直接の影響を受けません。

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