計画管理とダメコン

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 修士論文の指導をしていて困るのは、学生さんが2年間の計画について具体的なイメージを持っていないことです。2年間で修士論文を書き上げるとすると、この時期までにはこれだけのものが出来上がっていなければならない、というマラソンでいう各通過地点の制限タイムのようなものを意識しなければなりません。努力すれば何とかなる、と思っている人が多いのですが、本当に大事なのは「限られた時間を何に使うか」なのです。

 難しいことを身につけることは、身につけないより良いことであるに違いありませんが、難しすぎて結局修士論文に使えないとしたら、その時間を使ってもっと簡単で修士論文につながる作業をすべきでしょう。もしどうしてもその難しい数学や統計手法を使って論文を書きたいのであれば、2年と言うタイムスケジュールを伸ばすか、でなければ入学前にあらかじめその勉強をして、貴重な修業年限を食われないようにすべきでしょう。

 小さくても重要な部分が遅れていたり、問題を抱えていたりすれば、それは計画全体の危機です。これは別に学問でなくても、模擬店の設営やクラブ活動など、共同作業にはつきものです。そして、お仕事にも。計画は計画ですから、見通しの誤りが必ずありますし、アクシデントも起こります。それに対処することをダメージ・コントロール、略してダメコンと言いますが、このダメコン能力は実社会では非常に重要です。

 ケインズの「雇用、利子および貨幣の一般理論」の最後のほうで、「物事は最初に報告されたほど良くも悪くもない」というイギリス陸軍将官の言葉が引用されています。何かアクシデントが起こったとき、他に悪影響が及んでいるのを見落としてしまうことがありますし、動転して悲観的になってしまうこともあります。

 状況がわかったら対処を決めることになりますが、ここで重要なのが「全体の中でそれがどれほど重要か」ということです。他の部分がうまくいっても、その部分が予定通りでないと全体の意味がないかもしれません。逆に原則を曲げて対処した場合、他の重要な部分で矛盾や不都合が起こるかもしれません。

 アクシデントは計画中にまだ起こるかもしれません。計画の重要な部分を予定通り進めるために、重要でない部分を放棄することも必要でしょう。責任者が目の前のアクシデント処理にかかりきりになれば、もっと大きなアクシデントが後から起こったとき、対処すらできないかもしれません。

 感情的な行動を取るメンバーも出てくるでしょう。どんな計画でも、聖人君子だけで実行するような贅沢はできません。単に冷静な行動を求めるだけでなく、状況を簡潔に説明することができれば、メンバーの不満を和らげることができるでしょう。2000年9月の東海豪雨で立ち往生した新幹線の車掌たちに最新の状況が伝わらず、乗客の不満がつのったことはいろいろなメディアで報道されています。

 ダメージ・コントロールはリーダーにとって最も大きな経験になりますが、それ以外の人もリーダーを援助したり、観察したりしてダメコン能力を引き上げることができるでしょう。

 私も社会人になって、何度かこの種の状況に出くわしましたが、何度やってもいやなものです。ただどうも昨今の社会情勢を見ていると、階層分化が急速に進んでいて、ごく少数の正社員や幹部社員で派遣社員やパートタイマーや契約社員を指揮して仕事をする、と言う形態が増えてきたように思います。学生の皆さんが大学卒業者の職場としてイメージするような職に就こうと思ったら、プロジェクトを管理し、異常に対処する能力を少しでも身に付けて、そのことをアピールすることが重要ではないかと思います。「人脈は資産ではあるけれど」で触れた、幹事ができる人、というのは、おそらくそれにあたるのでしょう。

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