ミクロ経済学特講2013

出典: Hnami.net

版間での差分
(社会主義はなぜ行き詰ったか(非市場的資源配分))
最新版 (2013年3月15日 (金) 07:04) (ソースを表示)
(インフレとインフレターゲット)
 
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 講義のテーマは、最近世界経済で猛威を振るう「グローバリゼーション」です。世界がひとつの市場につながってしまったことによって、誰にとっても得をした面と損をした面があります。それらはなぜ起こったのでしょうか。
 講義のテーマは、最近世界経済で猛威を振るう「グローバリゼーション」です。世界がひとつの市場につながってしまったことによって、誰にとっても得をした面と損をした面があります。それらはなぜ起こったのでしょうか。
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 今回と4年前の講義の間に、東日本大震災が起こりました。貿易収支、次いで経常収支も赤字となり、新聞のトップニュースもずいぶん様変わりしました。いまや資本収支の黒字が日本経済の生命線といってもいい状況です。ですから今回は、資本収支に現れるような金融取引を「金融商品の価格決定」という観点から前回より大きく取り上げようと思います。使う言葉は全然違いますが、価格が上がったり下がったりする理屈には似たところが多いのです。
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 今回と4年前の講義の間に、東日本大震災が起こりました。貿易収支、次いで経常収支も赤字となり、新聞のトップニュースもずいぶん様変わりしました。いまや所得収支の黒字が日本経済の生命線といってもいい状況です。ですから今回は、所得収支に現れるような金融取引を「金融商品の価格決定」という観点から前回より大きく取り上げようと思います。使う言葉は全然違いますが、価格が上がったり下がったりする理屈には似たところが多いのです。
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== 講義内容 ==
== 講義内容 ==
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 2007年~2008年のサブプライム危機を根深くしたのは、タックス・ヘイヴンに多くのファンドが置かれ、それらのファンドを欧米の規制当局が直接把握できないので、「誰がどれくらい損しているのか互いにわからない」ことでした。実際に救済に乗り出せるのは税源を持った各国政府しかなく、ECにも加盟せず独自の金融立国を目指したアイスランドは孤立無援に陥りました。
 2007年~2008年のサブプライム危機を根深くしたのは、タックス・ヘイヴンに多くのファンドが置かれ、それらのファンドを欧米の規制当局が直接把握できないので、「誰がどれくらい損しているのか互いにわからない」ことでした。実際に救済に乗り出せるのは税源を持った各国政府しかなく、ECにも加盟せず独自の金融立国を目指したアイスランドは孤立無援に陥りました。
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 取引で利益を得る可能性がある限り、実質的には市場はどんどん広がっていきます。企業もそれにつれて多国籍化したり、多国籍で提携を結んだりします。国家の規制を離れた市場が思わぬ疑心暗鬼に陥り、誰にも手の打ちようがない事態をもたらしたのが今回の問題でした。かといって、国家の力では取引全体を把握・規制することも不可能なのが現状です。
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 取引で利益を得る可能性がある限り、実質的には市場はどんどん広がっていきます。企業もそれにつれて多国籍化したり、多国籍で提携を結んだりします。国家の規制を離れた市場が思わぬ疑心暗鬼に陥り、誰にも手の打ちようがない事態をもたらしたのが2008年のリーマン・ショックでした。かといって、国家の力では取引全体を把握・規制することも不可能なのが現状です。
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 例えば、EU加盟国全体に同じ銀行規制を敷き、やっていいことと悪いことを統一しようとする提案に対して、現に国際的な金融の中心となり、そのことで国内に多くの雇用を確保しているイギリスは反対しています。そんなことをされたら、いまロンドンが果たしている役割はEUのどこでもいいことになります。また、欧州全体の金融機関から金融取引税(FTT)を取り立て、金融機関救済のために各国が使い、これからも使うかもしれない公的資金を埋め合わせようとする提案にもイギリスは反対しています。いまイギリスで盛んに行われている金融取引から、全EUであがるFTT税収の半分以上が徴税されると言われており、イギリスに落ちていた利益がEU共通の財布に召し上げられてしまうからです。
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*契約自由の原則
*契約自由の原則
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 契約自由の原則は主に私法(民法)の言葉ですが、経済活動の大前提でもあります。人や企業は、原則としてどんな契約でも自由意志で結べる、というものです。これが満たされない世界は、政府が徳政令で私人間の契約を無効にしたり、契約を履行させる民事手続を提供しなかったりする世界です。確かに「後から見れば好ましくない」取引はあるのでしょうが、それを個別に政府が否定・修正することを認めると、安定的な経済活動の基礎が崩れてしまいます。
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 契約自由の原則は主に私法(民法)の言葉ですが、経済活動の大前提でもあります。人や企業は、原則としてどんな契約でも自由意志で結べる、というものです。これが満たされない世界は、政府が徳政令で私人と私人の契約を無効にしたり、契約を履行させる民事手続を提供しなかったりする世界です。確かに「後から見れば好ましくない」取引はあるのでしょうが、それを個別に政府が否定・修正することを認めると、安定的な経済活動の基礎が崩れてしまいます。
=== 財の貿易 ===
=== 財の貿易 ===
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 ひとつの財を複数の部品に分け、それぞれ一番安いところから買うことはよく行われています。同じ財であれば、トータルで最も安く生産できる企業が価格競争に勝ちます。
 ひとつの財を複数の部品に分け、それぞれ一番安いところから買うことはよく行われています。同じ財であれば、トータルで最も安く生産できる企業が価格競争に勝ちます。
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 日本国内の工場が「安く作る」面で外国工場に負けるなら、海外にない高い技術を必要とする高付加価値製品を日本に残し、それ以外は外国工場から買うようにしないと、日本製品が海外製品に価格面で負けてしまいます。問題は、そうした高付加価値工場の仕事が、日本人の多くを雇うほどにはないことです。
 
=== 何と何が同質なのか ===
=== 何と何が同質なのか ===
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 あこがれの職業・職種につくための学校は、それ自体がビジネスです。プロとして収入を得られる人々の数と、各種の養成学校が送り出す卒業生の数は一致するとは限りません。そして、志望者が多いということ自体が需要と供給のバランスを動かし、その職種の賃金を下げる材料として働きます。
 あこがれの職業・職種につくための学校は、それ自体がビジネスです。プロとして収入を得られる人々の数と、各種の養成学校が送り出す卒業生の数は一致するとは限りません。そして、志望者が多いということ自体が需要と供給のバランスを動かし、その職種の賃金を下げる材料として働きます。
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=== 利子率はどうやって決まるのか ===
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*貸す(預ける)側の理屈
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「A:今日100円もらう」「B:明日100円もらう」あなたならどちらがいいですか? 同じ消費をするなら、将来よりも今がいいと考えるのが普通でしょう。じゃあ「B':明日101円もらう」だったらどうでしょう。AよりもB'という人が、今度はいるかもしれません。100円を1日だけ余計に他人の自由にさせることで、1%の利子を取ってしまったことになりますね。年率に直すと365%。
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 個人個人で、「101円ならいいかな」「102円は欲しいな」などと、「消費を明日に伸ばしてもいいな」と考えるギリギリの水準には差があるでしょう。例えば「1日我慢するなら1%余計に欲しいな」という人は上のB'をAの代わりに(ぎりぎり)受け入れるでしょう。この人は「1日あたり1%という時間割引率を持っている」といいます。時間割引率は煎じ詰めると、個人の好みです。「正しい」時間割引率なんかありません。もし「お金を借りたい人(いま何かを買いたい人)」と「お金を貸してもいい人(消費を先に延ばしてもいい人)」がたったひとつの「お金の市場」で向き合っているとしたら、利子率は「お金の価格」であり、価格が上がるほど市場に「お金」が供給されるでしょう。
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*借りる側の理屈
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 これに対して、借りる側はいま手に入れたお金で、すぐ何かを買うことができます。例えばお金を借りてマイホームを買うとしましょう。マイホームは買ったときから何十年もの間、快適な生活をくれますし、プライドも満たしてくれます。自分で貯金して何十年後にマイホームを買うことに比べると、利子は余計に払わなければなりませんが、マイホームから受ける各種の効用を長いこと受け取ることができます。どれぐらいの満足を見込めるかで、払ってもいいと考える利子率は異なるでしょう。
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 効用を得るためのほかに、人がお金をお金を借りるもう一つの主な理由は、生産活動をするためです。設備を買い、人を雇うために1000円使って、製品を売って1年に1100円の売上が見込めるなら、年に10%の利子率でその1000円を1年借りても損にはなりません。もうかる仕事であるほど、高い利子率を払っても黒字が出るので、何もしないより借りたほうが得です。
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*利子率を高める・低める要因と金融政策
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 たいてい、お金を借りた側が効用や売上を予定通り得られるかは不確実です。例えば人や企業が破産すると借金は取り立てられなくなりますから、儲からずに破産する確率が高ければ、利子率を高めにしないとお金を貸す人がいません。結果の不確実さを一般にリスクと呼びますが、リスクが大きいので余計に払う利子率などをリスク・プレミアムといいます。
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 保存してもあまり傷まない商品が、もうすぐ値上がりすることがわかっていたら、取っておいて後で転売しようとみんな考えるので、今から値上がりしてしまいます。お金の場合もそうで、何十年後に将来利子率が上がるかもしれないとみんな思っているときは、貸し手は今の利子率で長いことお金を貸したくありません。長いこと貸すなら、今より高めの利子率でないと貸そうとしません。今は超低金利ですから、これ以上利子率が低くなる余地はほとんどなく、いろいろな理由で上がる可能性はあります。ですから5年くらいの住宅ローンなら金利(利子率)は安いのに、30年とか35年とか長期の住宅ローンを組もうとすると、ぐーんと高い金利で契約しないと銀行はお金を貸してくれません。「将来高くなる予想が人々に広がる」ことを「先高感がある」といいますが、みんなが利子率に先高感を持つと現在の利子率も上がりますし、逆なら下がります。
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 '''お金にも代替財があります。例えば「金」や「プラチナ」がそうですし、他国の通貨も外国に口座を持ったり、外国通貨の札束を持ったりすることで、自国通貨の代わりに貯蓄や取引に使えます。だから他国に有望な儲け話があれば資金はそちらに行って、自国で資金の貸し手が減って利子率が上がってしまうかもしれませんし、逆に他国から貸し手が現れればその国での利子率は下がるでしょう。'''このことは今年の講義を理解するポイントで、世界でお金を動かしている人の立場が想像できるようになれば、新聞で報じられる金融市場の動きはずいぶん理解できるようになるのです。
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 利子率は「貨幣の価格」ですから、高いと資金が「売れない」ことになり、経済活動縮小につながります。利子率やその他の金融指標をコントロールすることで、経済全体をコントロールすることを金融政策といいます。
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*効率的市場仮説
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 例えば「アメリカで株価が下がっている」「外国為替市場で円高ドル安方向に相場が変化した」というニュースは東京証券取引所を利用する株の売り手や買い手にすぐ流れ、東証での株式相場が下落する材料になります。
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 市場参加者が、取引に関係するすべての情報を遅れずに知り、あらゆる予測を瞬時に修正している、という仮説を効率的市場仮説といいます。もちろんそんなはずはないのですが、どの情報がどんなふうに伝わらないと考えるかは人それぞれで合意が得にくく、証拠を示すことも大抵できないので、効率的市場仮説を受け入れて議論をしたほうが現実の大枠をつかめることがあります。
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*直接金融と間接金融
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 家計や機関投資家(保険会社とか年金基金とか)が株式・社債を買うことや、機関投資家が個別に融資することを直接金融といいます。これに対し、銀行など金融機関が預かったお金を貸すことを間接金融といいます。
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 企業の信用(収益性や倒産の可能性)は判断が難しく、判断材料を集めるには費用がかかります。無名の企業が社債を発行しようとしても、利率が非常に高くなるか、誰も買ってくれないかです。だから銀行の審査を受けて、リスクに見合った利率で貸し付けを受けるほうが現実的です。
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 資金が国境を超えることに規制が強く、間接金融の比率が高いとき、銀行の標準的な貸出金利(プライムレート)や中央銀行から市中銀行への貸出金利(公定歩合)を上下させることで、中央銀行は利子率のコントロールが可能です。しかし1960~1970年代のアメリカで、証券会社・信託銀行の扱う金融商品への規制や国際資金移動への規制が緩くなると、規制に縛られた間接金融から、もっと有利な取引機会を求めて資金が逃げ出す「dis-intermediation」が起こりました。例えば個人が銀行預金をする代わりに、証券会社へ行って株式や社債を買う傾向が強まりました。特に世界的にインフレが起きた1970年代に、銀行金利がインフレへの調整が遅くて実質的に(=物価上昇率を考えると)低くなってしまい、利回りが自由につけられる社債のほうが有利になって、強い規制をしていては銀行業が成り立たないという危機に陥りました。
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 それで1980年代以降の金融政策は利子率の直接コントロールから、貨幣量を増やしたり減らしたりして(公開市場操作)金融全体を緩めたり縮めたりすることに移行しました。
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*貨幣量
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 大雑把に言えば、マネーストック(貨幣量)は「銀行預金残高+中央銀行券発行残高」です。言い換えれば「支払い手段として誰もが認めるものの総額」ですが、クレジットカードなどが登場して、意味はあいまいになりました。クレジットカードで毎月使える額にはたいてい限度がありますが、それは預金残高とは関係ありません。マネーストックの中で、「市中銀行が中央銀行に預けている当座預金残高+中央銀行券発行残高」をマネタリーベースと言います。マネーストックは、マネタリーベースをもとにお金を借りたり支払いの約束をしたりして、金融機関同士で作り出された部分が大きいと考えられます(信用創造)。
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 利子率は「貨幣の価格」ですから、貨幣量を増やせば利子率は下がるはずです。以前日本銀行がとっていた「量的緩和政策」は、マネタリーベースがある目標額になるように公開市場操作で資金を供給するというものでした。
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 ただし貨幣量を増やし利子率が下がっても、個々の融資案件に焦げ付き懸念があると結局中小企業の資金繰りは良くなりません。1991年のバブル崩壊までは、日本では土地の価格はほぼずっと上がり続けていました。だから中小企業の業績が悪くても、工場などの土地建物を担保に設定して、借金が返せなければ担保をもらうように契約していれば、銀行は安心できたのです。ところが地価の下落で土地が担保として当てにならなくなると、銀行は企業の業績(利益がどれくらいあるか)に基づいた審査をせざるを得ず、今まで貸してもらえたお金が貸してもらえなくなる企業が続出しました。いわゆる「貸しはがし」には国際基準バーゼルIIを引き金とするもの、銀行が赤字に陥らないために引当金を取り崩そうとするものなどいろいろな原因がありますが、「赤字だとお金が借りられないという当り前のことが現実になったから」というのも原因のひとつなのです。
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*様々な資金調達手段
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 企業が資金を必要とするとき、様々な調達方法があります。
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**株式を追加発行(増資)します。株式を買った人は企業の部分的な所有者となり、持っている株数に比例した株主総会での議決権を持ちます。利益が上がったとき、株主総会の承認によりその一部を配当として受け取ります。利益が上がらないときの配当は禁止されていますし、倒産したときはまず他の負債を払って、残りを株数に比例して受け取れるだけです。何も受け取れない可能性もあります。
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**社債を発行します。決まった年数の後、社債の所有者に元金を返し、それまでのあいだ一定間隔で決まった利子を払います。社債の所有者は、社債を他の人に売るかもしれません。信用のある企業ほど、低い利子で社債を買ってもらえます。
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**銀行などから融資を受けます。期間や利子については相談して契約します。
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**手形やコマーシャルペーパーを発行します。短期間の社債と考えればいいでしょう。商品を仕入れてから、売れて現金が手元に出来るまで30日、45日といった期間支払いを待ってもらうための約束手形が典型的な手形です。コマーシャルペーパー(CP)は取引とは関係なく発行される手形で、よく知られた優良企業が短期の資金繰りのために発行します。
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*資本コストとMM定理
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 株・社債・銀行融資など手段を問わず、企業が資金を調達するため最低限かかる利子率に相当するものを資本コストと言います。理屈から言えば、企業は株式の追加発行、社債発行、銀行融資などのうちから「資本コスト」が一番安い方法で資金調達しようとするはずです。そうなると、どの調達方法も同じ資本コストになるよう利子率などが調整されるはずです。これがモジリアーニ・ミラーの定理(略してMM定理)と呼ばれる有名なモデル分析結果の実質的な意味です。
=== 為替レートはなぜ動く ===
=== 為替レートはなぜ動く ===
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 為替レート決定にとってのストックとは何でしょう。過去の経済活動で積みあがった、世界中にある金融資産(現金、預金、株式、債券など)をまず思い浮かべてください。金融資産以外のストック(不動産など)も金融資産の取引と互いに影響を与え合います。
 為替レート決定にとってのストックとは何でしょう。過去の経済活動で積みあがった、世界中にある金融資産(現金、預金、株式、債券など)をまず思い浮かべてください。金融資産以外のストック(不動産など)も金融資産の取引と互いに影響を与え合います。
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 例えば東京証券取引所「投資部門別売買状況」で「株券」の「外国人売買における法人、個人の数値」を東証一部について見ると、2008年10月~12月のうちに東証一部の株だけで、外国人投資家は約3兆円の売り越しを出しています。買った株より売った株の代金がそれだけ多いのです。もちろん株が下がったから売って債券などを買った分もあるでしょうが、2008年9月の世界的株安で欧米のファンドが大打撃を受けたので、売れるものを売って本国に送金したことの影響が大きいでしょう。
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 例えば東京証券取引所「投資部門別売買状況」で「株券」の「外国人売買における法人、個人の数値」を東証一部について見ると、2008年10月~12月のうちに東証一部の株だけで、外国人投資家は約3兆円の売り越しを出しています。買った株より売った株の代金がそれだけ多いのです。もちろん株が下がったから売って債券などを買った分もあるでしょうが、2008年9月の世界的株安で欧米のファンドが大打撃を受けたので、売れるものを売って本国に送金したことの影響が大きいでしょう。だからリーマンショックの直接的な損失は日本にはほとんどなかったのに、日本での株安がやっぱり襲ってきました。
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 日本からアメリカへストックを送金する動きは、円を手放してドルに両替しようとするので、円安ドル高の変化を促します。しかし現実にはこの期間に、大幅な円高ドル安が進みました。比較的株暴落の打撃を受けておらず、日本銀行は急に通貨の価値を落とすような金融政策を取りそうにないので、欧米の株式市場や商品市場(原油や穀物も暴落しました)から逃げ出した資金が円資産に逃げてきたのです。
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 日本からアメリカへストックを送金する動きは、円を手放してドルに両替しようとするので、円安ドル高の変化を促します。しかし現実にはこの期間に、大幅な円高ドル安が進みました。比較的株暴落の打撃を受けておらず、日本銀行は急に通貨の価値を落とすような金融政策を取りそうにないので、欧米の株式市場や商品市場(原油や穀物も暴落しました)から逃げ出した資金が円資産に逃げてきた(でも株を買ってはくれなかった)のです。
[http://www.tse.or.jp/market/data/sector/index.html 東京証券取引所 投資部門別売買状況]
[http://www.tse.or.jp/market/data/sector/index.html 東京証券取引所 投資部門別売買状況]
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 2008年9月以降、世界各国の低金利誘導(日本と同じ不況対策)によって、日本とそれ以外の金利差は急速に縮小しています。これは円高材料だと考えられます。
 2008年9月以降、世界各国の低金利誘導(日本と同じ不況対策)によって、日本とそれ以外の金利差は急速に縮小しています。これは円高材料だと考えられます。
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 現在でもトルコなど、海外の資金で社会資本(道路など)や工場を作ることを最優先に考えている国は、金利を高めに誘導して海外資金を呼び込む政策を取ります。自分の国の通貨が「値上がり」するので、輸出には不利になる副作用があります。
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=== 国際社会でお金を稼ぐ3つの方法 ===
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*国際収支、経常収支、貿易収支
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「いま日本の国際収支は赤字ですか黒字ですか」といった質問は、古典的な引っ掛け問題です。引っかからないように覚えてください。どんな国であろうと、国際収支は(理屈の上では)赤字にも黒字にもなりません。国際収支を構成するいくつかの要素のどれが黒字になり、どれが赤字になるかが国の状態を示すのです。もっとも実際の統計では、貿易の記録と金融機関の記録が合わなかったりして、日本の場合は少ない年でも数千億円、多い年は4兆円を超えるほどの「誤差脱漏」が出ます。
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国際収支は、経常収支+資本収支+外貨準備増減です。どれかが赤字になれば(または減少)、どれかが黒字になります(または増加)。3つ足したら0になる「はず」なのです。
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 まず考える練習のために、経常収支の一部である貿易収支だけを考えましょう。仮にある年、日本の輸出が輸入より1兆円多かったとします。その1兆円は誰かが持っているはずですね。どこに? タンスの中か、銀行預金か。でも貿易なんですから、受け取ったときには外国の貨幣だったはずです。話を簡単にするために、それがアメリカドルだとしましょう。アメリカ相手の貿易ではなくても、国際的によく使われている通貨で契約することはよくあるようです。日本の誰かが(たぶん銀行ですよね)、アメリカドルを1兆円分余計に持つようになりました。
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=== 企業の資金調達(1)貸し渋りはなぜ起こる ===
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 これは、ややこしいですが、1兆円分の資本収支赤字が生じたということなのです。もうかったのに赤字? ポイントは、日本人のものであるお金が外国へ1兆円分出て行ったのと同じ格好になっていること。日本人が円で持っている資産を1兆円分ドルに換えて、アメリカの株か何かを買うためにアメリカドルに両替しても、同じ状態になりますよね。まとめると、
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*効率的市場仮説
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 例えば「アメリカで株価が下がっている」「外国為替市場で円高ドル安方向に相場が変化した」というニュースは東京証券取引所を利用する株の売り手や買い手にすぐ流れ、東証での株式相場が下落する材料になります。
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資本収支の黒字 外国から資金が入ってくること。
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 市場参加者が、取引に関係するすべての情報を遅れずに知り、あらゆる予測を瞬時に修正している、という仮説を効率的市場仮説といいます。
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資本収支の赤字 外国にお金を貸したり、借金を返したりして、資金が出てゆくこと。貿易黒字を使わずに貯めておいてもこうなる。
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*様々な資金調達手段
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 ドルに換えてから、そのお金で株を買ってもアメリカ国債を買っても、資本収支は増えも減りもしません。だって「1兆円分の」資産を持っていることは変わらないのですから。
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 企業が資金を必要とするとき、様々な調達方法があります。
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 さて、経常収支の話をしましょう。経常収支は貿易収支+サービス収支+所得収支+経常移転収支です。形のある有価物を財、形のない有価物をサービスと呼ぶことはミクロ経済学で習ったと思います。東日本大震災以後、日本が急に液化天然ガスを今までより多く買うようになり、これが貿易収支を赤字にしました。特許の使用料、著作権収入、観光収入などがサービス収支に含まれる取引の例です。日本のサービス収支はもともと少し赤字です。所得収支は日本が外国にある資産から稼いでくる利子・配当や子会社利益の送金(外国に払う分を差し引く)で、これがかなり黒字です。経常移転収支は労働者の仕送りなどで、これもわずかに赤字です(日本で働く外国人の母国への仕送りのほうが、逆のケースより多額だということですね)。
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**株式を追加発行(増資)します。株式を買った人は企業の部分的な所有者となり、持っている株数に比例した株主総会での議決権を持ちます。利益が上がったとき、株主総会の承認によりその一部を配当として受け取ります。利益が上がらないときの配当は禁止されていますし、倒産したときはまず他の負債を払って、残りを株数に比例して受け取れるだけです。何も受け取れない可能性もあります。
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 残念ながら、所得収支の黒字で貿易収支の赤字をカバーしきれず、日本の経常収支は赤字になってしまっています。
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**社債を発行します。決まった年数の後、社債の所有者に元金を返し、それまでのあいだ一定間隔で決まった利子を払います。社債の所有者は、社債を他の人に売るかもしれません。信用のある企業ほど、低い利子で社債を買ってもらえます。
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**銀行などから融資を受けます。期間や利子については相談して契約します。
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**手形やコマーシャルペーパーを発行します。短期間の社債と考えればいいでしょう。商品を仕入れてから、売れて現金が手元に出来るまで30日、45日といった期間支払いを待ってもらうための約束手形が典型的な手形です。コマーシャルペーパー(CP)は取引とは関係なく発行される手形で、よく知られた優良企業が短期の資金繰りのために発行します。
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*資本コストは資金調達手段に関わらない(はず)
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 外貨準備の話は後で刷るとすれば、経常収支が赤字であるなら、資本収支は黒字でなければなりません。経常収支が赤字であったので、外国に円資産を持たれている状態です。外国に対する借金が増えている……という説明は単純すぎますが、企業の株主が外国人ばかりになったり、日本国債の多くを外国人が買ったりしているところを想像して下さい。資本収支の黒字がたまるというのは、そういうことです。
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 政府規制の影響がない効率的な資本市場(資金の市場)なら、それぞれの調達手段についても裁定が働くはずです。例えば社債を発行したほうが利率が低いなら、誰も融資を受けようとはしないでしょう。しかし実際には、情報を得るには費用がかかるので、そうはなりません。
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 もちろん、これは必ずしも悪いことではありません。例えばオーストラリアは炭鉱や鉄鉱の設備投資のために外国の資金を借り、その利子を払いながら資源を輸出しています。イギリスは海外の資金を受け入れて有利に運用する、いわば金融立国政策を取っているので、資本収支の黒字と国内の雇用確保が両立しています。
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*間接金融と直接金融
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 ただ日本のように過去の政府負債が膨大に溜まっている国で、金融資産の多くが外国人のものになって、何かをきっかけにその資金が一斉に日本から引き上げられたりしたら、日本は大変です。だから経常収支赤字というう現状を見て、何もしないでいるのは危険なのです。
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 銀行などの金融機関は、融資先を審査して、融資して良いか、利率はリスクの大きさに見合っているかを判断します。銀行側の審査の上手下手もありますが、取引が長いほど銀行にとっての判断材料は多いはずです。
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 最後に、外貨準備の話をします。これは「政府が持っている外貨建て資産」です。よく「アメリカ国債を一番多く買っているのは日本か中国か」という話題が持ち出されますが、外貨準備をドル預金で持たず、相当な部分をアメリカ国債で持っているわけです。円高が進まないように円を売ってドルを買う「(円売りドル買いの)日銀介入」が行われることがありますが、日銀は政府の基金を使って(もちろん、財務省と相談しながら)介入をすることになっています。だから円売りドル買いの日銀介入があると、外貨準備は一気に膨れ上がることがあります。逆に円の価値を保つ円買いドル売りの日銀介入をしようと思ったら、外貨準備が十分にないと実行できません。
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 お金が金融機関を経由する金融を間接金融、金融機関以外の貸し手が直接社債や株式を買うものを直接金融と言います。間接金融の場合、金融機関の審査によって借り手が評価されます。直接金融の場合、その企業の一般的な評判に加えて、第三者である核付機関に借り手がお金を払って依頼し、公表してもらった格付が貸し手の判断材料になるのが普通です。
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 このように、外貨準備(高)の額が問題になるのは為替市場に介入するときくらいなので、この講義にとってはあまり重要ではありません。
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 実際には、企業の信用(収益性や倒産の可能性)は判断が難しく、判断材料を集めるには費用がかかります。無名の企業が社債やコマーシャルペーパーを発行しようとしても、利率が非常に高くなるか、誰も買ってくれないかです。高い費用を払って格付を受けても、低い格付しか得られないでしょう。
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*経常収支を黒字にする方法(1)労働の安い国になる
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*ぼったくりはあっても貸し渋りはない?
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 世界で一番賃金の安い国になるのが、仕事を増やして外貨を稼ぎ、特に貿易黒字を稼ぐ古典的な方法です。日本もある時期にはそうでした。ただ、仕事をしただけ豊かな暮らしをしたいと当然みんな考えますから、やがては賃金水準が上がり、他の国に仕事を取られてしまいます。
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 さて、貸し渋り現象はなぜ生じるのでしょうか。以上のことを考えると、(正常なビジネスでは利率に見合う利益が出ないほどの)非常に高い利率も含めれば、必ず貸し手はいるはずです。実際の世界では、利息制限法によって、融資で設定できる金利の上限が決まっています。元金の金額によって、15~20%です。借金を返せる見込みが極めて低い相手について、貸し手が合意する金利がこの金利を超えていれば、融資契約は成立しないでしょう。もちろん、実際にこのような利率で融資を受けても、企業自体にも経営者の家族にも遠からず危機が訪れるでしょう。
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 この考え方のバリエーションとして、労働者を出稼ぎに出して経常移転収支を稼ぐ方法があります。もちろん、労働者が稼ぎに行った国では「仕事を取られる」と嫌な顔をされる面もあるでしょう。
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 かなり長い間、日本の土地価格全般は第二次大戦後、1991年ごろまで「上がりはしても下がることはない」のが実態でした。ですから不動産を担保に取っておけば、その価格までの負債返済は確実でした。いっぽう、日本の法人企業(株式会社、有限会社など)のうち赤字を出した欠損企業の割合は、1975年には43%であったものがじりじり上がり、バブル期にいったん減少傾向になったものの、近年では65~70%となっています。
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 観光収入はサービス収支を改善しますから、経常収支を黒字の方向に「改善」するために観光の振興は有効です。現実には、「観光以外に産業がない」地域は膨大な貿易赤字を出すので、観光「だけ」で経常収支を黒字に持ってゆくことは困難ですが、補完的な政策としては有効です。
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[http://d.hatena.ne.jp/hnami/20081225 もっと詳しい解説とデータはこちら]
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*経常収支を黒字にする方法(2)外国に投資して利子・配当で稼ぐ
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 つまり、以前は企業自体に負債を返す能力がなくなっても、不動産担保があると見れば金融機関は融資してくれましたし、融資すればほぼ確実に元金と利子は金融機関に返ってきました。不動産担保が当てにならない最近では、事業の収益性から返済の確実さを判断する必要がありますが、赤字企業は全般に増加する傾向にあり、経営に行き詰まって融資を返済できそうにないと判断されそうな中小企業の比率は増加していると思われます。
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 多くの先進国(の企業や家計)は、発展途上国よりも人口構成が高齢化していることもあって、過去に稼いだ資産を持っています。外国に工場を建てたり、外国企業の株を買ったりしています。2012年12月現在、[http://www.samsung.com/us/aboutsamsung/ir/corporategovernance/ownershipstructure/IR_OwnershipStructure.html サムスン電子の普通株は50%が外国人の所有です]が、自己保有株式を分母から除くと比率は50%を超えます。優先株に占める比率はもっと高く、サムスン電子の利益はいろいろな国の株主に分け与えられています。
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 だから、以前に比べて金融機関が中小企業に対して貸し渋りの傾向を持つのは、不動産市場の変化と収益性悪化への警戒感から、金融機関の合理的な行動として説明できます。
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 リーマンショック以後、アメリカ企業の業績やアメリカ企業の株価は回復していったのに、失業率などの労働事情はそれほど改善しなかったことがアメリカで政治問題化しました。つまり、もうからなくなった事業を切り捨てたり、縮小した売り上げに見合わない雇用を切り捨てたりすることでアメリカ企業の業績は回復し、それらの株を持っていた人や組織の資産も値上がりしたのに、資産を持たない労働者はちっとも暮らし向きが回復しなかったのです。所得収支に経常収支改善を頼ることは、国内の分配問題を先鋭化させる副作用があります。
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 新銀行東京は大きな不良債権を抱えました。個々の融資案件についての合理性を問う余地はありますが、「貸すことが合理的でない」状態で、東京都が主体になった銀行として「とにかく目の前の地域企業に貸す」ことを優先すれば、それは採算を悪化させる要因になったでしょう。東京都大田区の事業経営資金融資制度は大田区に相当額の赤字を出すでしょうが、政治的決定に基づく公金支出として間違っているわけではありません。
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*経常収支を黒字にする方法(3)先鋭技術を国内に確保して資本財輸出と知的所有権収入で稼ぐ
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*貸しはがしはなぜ起こる?
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 例えばCD-Rはほとんど日本で作られていませんし、DVDやBDも海外で作られているものが多いのですが、情報を記録するための記録色素は三菱化学メディアなど日本メーカーが生産し輸出しています。こうしたキーになる技術だけを手元に置き、その生産や技術供与で稼ぐことができれば、こんないいことはありません。
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 しかし、いままで認めてきた運転資金の融資を突然断られるケースはどのように判断したらいいでしょうか。借り手の収益見込みや担保価値に大きな変化がないのに、今までの融資分を突然返済するよう迫られる「貸しはがし」は頻繁に起こったようです。
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 世界中の先進国、そしてもちろん先進国になろうとする国々が技術を欲しがり、技術を磨いて来ますから、日本に限らず、自国に残る雇用はそれほど大きくなりません。しかしそれが国全体が食べてゆく競争力の源泉であることは確かです。
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 金融機関の自己取引による損失、新たな借り手、引当金の問題などが要因として考えられます。順に考えて行きましょう。
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 銀行は融資はしても、株式市場での投機は本業ではありません。また、証券会社は顧客の注文を取り次ぐのが本業で、証券会社自身の勘定で株取引をするのは本業ではありません。しかし、デリバティブを販売するためにその元になる金融商品を保有する必要が生じたり、地方に優良な貸付先が見つからなかったりして、金融機関は世界同時株安で大きな損失を出しました。特に、地方銀行の損失は(メガバンクほどの損失額ではないとしても)経営に重大な影響を与えることが懸念されています。
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=== ファンドマネージャーから見た世界 ===
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[http://www.business-i.jp/news/kinyu-page/news/200812090013a.nwc 地銀109行、有価証券損失1665億円 中小向け融資に悪影響懸念(「FujiSankei Business i.」2008年12月9日)]
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*ヘッジファンド問題
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 銀行はバーゼルIIなどの自己資本比率規制をクリアするために、株安などで自己資本が減ったときは、それに合わせて融資のほうを削らないと業務が続けられなくなってしまうのです。
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 1997年のアジア通貨危機や、英ポンド危機において、ヘッジファンドと呼ばれる類型のファンド(個人やチームに運用を任された、巨額の金融資産)が国際金融のプレイヤーとして注目されました。
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 同様に、コマーシャルペーパーが発行しづらくなった大手企業が銀行などに融資を求めてきた場合、自己資本比率規制をクリアし続けるためには、どこかの融資を減らさないといけません。これが貸しはがしの一因になっている、という主張もあります。
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 2008年(9月の問題が起きる前)には、業界雑誌の推計によると、1兆円以上のヘッジファンド資金を集める企業は60社ほどありました。ただし、ファンドは細分化されることが普通で、マネジャーへの運用報酬ランキングから考えると、1兆円以上を個人で動かせるファンドマネジャーは世界で数人だと思われます。そしてヘッジファンド自体、年金ファンドなど他の機関投資家に比べれば、量的には大きな存在ではありません。
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 引当金の問題はもっと複雑です。金融機関は融資相手を貸し倒れ(融資が回収できなくなること)が起こりそうな程度によって分類しています。そしてその分類ごとに、最近の貸し倒れ発生率を参照しながら貸倒引当金を積みます。これは「回収できなくなりそうな額」をあらかじめ資産から差し引いて「引当金」として別に取っておくものです。
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[http://www.iimagazine.com/Rankings/rankingsHeFu100RGlobal08.aspx Institutional Investor: 2008 Hedge Fund 100]
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 融資をやめて貸倒引当金を取り崩すと、(無事に損失を出さないで)取り戻した引当金の分だけ、銀行の当期利益が増えます。収益的に追い詰められた銀行は赤字を切り詰める決算対策として貸しはがしを行うかもしれません。
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 ただしこれはあくまでも、世界の金融資産に占める比率の話です。ひとつの国に集中的な売り買いが入れば、資産相場を乱高下させてしまう可能性はあります。それぞれの国には少なくとも、その国から逃げ出すことが出来ず政治的要求を突きつけられた、政府や中央銀行というプレイヤーがいます。それらが足元を見られ、不利な取引(市場介入)を強いられる可能性はあります。
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 よく「貸倒引当金を積んだ分は銀行の資産に数えられないので自己資本比率を悪くする」と書いてある文章がありますが、Basel II規制のもとで計算される自己資本比率は財務会計上の自己資本比率とは定義が違うので誤解です。以下に挙げる長い名前の金融庁告示によると、自己資本は資本金などの項目を個別に積み上げて算出するので、引当金を差し引くことはしません。
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 ファンドの種類によってマネジャーに課せられた制約は異なりますが、「少しでも有利な商品で利子や配当を稼ごうとする」基本的な立場は同じです。「ファンドマネージャーの身になって」市場を見ることができれば、市場の理解は大きく進みます。
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[http://www.fsa.go.jp/policy/basel_ii/01.pdf 銀行法第十四条の二の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準(平成十八年金融庁告示第十九号)]
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*年金ファンド
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 一般貸倒引当金は自己資本の補完的項目に含めることができますし、返済が延滞した貸し出しについて、その案件に対する個別貸倒引当金が積んであると、積んでいない場合よりも分母を小さくできるので、自己資本比率は改善します。(金融庁告示第71条、第72条)
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 ハイリスクを冒してハイリターンを目指す類型がヘッジファンドだとすると、リスクを取ることをしばしば非難されるファンドの代表が年金ファンドです。こうした慎重な態度の、そしてヘッジファンドよりも巨額な資産を運用するファンドが買いに出てくると、その金融商品が値上がり傾向にあることが広く認められたしるしになります。
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 ただし、貸しはがしがBasel IIに基づく自己資本比率を改善することは事実です。分母も「資産の部の総額」ではなくて、これまた定義が長いのですが不正確さを恐れず短く言うと「リスクを持つ資産の総額」だからです。現金はウェイト0%なので分母に含めず、法人向けエクスポージャー(融資)は100%なので融資額をそのまま自己資本比率の分母に含めます(金融庁告示第55条、第65条)。貸しはがしで現金を取り返すと、自己資本比率の分母が減るのです。
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 企業が従業員のために設定する企業年金のマネジャーが、高利回りだと誘われてハイリスクな商品を買い、大きな損失を出してしまうケースが後を絶ちませんが、これは小規模な資産を運用する団体が運用の専門家を内部で育てられない・雇えないことが重要な原因です。もちろん素人だからだまされるのかというと、代表的な財界団体である経団連もリーマンショックでは資産運用で相当額の損失を出していますから、リーマンショック前後の例外的な状況を代表例のように言うのは適切でないのかもしれませんが、そうした場合に以前からの問題点が噴出したとも言えます。
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 だから自己資本比率が基準ぎりぎりのときは、銀行は問題のない貸し先であっても、いくらか貸しはがしをする誘因を持ちます。経営者にとってはまだまだ頑張れる状況なのに銀行は自己資本比率改善を優先して融資を切る、などということが起きるのです。
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*運用先の選択肢
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*公的資金注入と貸しはがし
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**株式
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 自己資本比率規制は、名前も知らない銀行と取引が生じる国際取引に参加するために、とくに不可欠となる規制です。どこの国でも確認できる数値指標で、その銀行のつぶれにくさを確認するためのものなのです。取引対象が世界に広がったことのひとつの副作用、と考えることもできます。2008年9月以降のアメリカの新聞を見ていると、日本なら貸しはがしと呼ばれそうな突然の融資拒否が問題になっています。
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 一番シンプルな株式投資は、株式会社の設立に出資して、株式を受け取ることです。例えば「資本金1000万円」で設立された株式会社は、その1000万円を株主たちから出してもらったのです。Aさんがそのうち100万円を出したとすれば、Aさんは株式の10%を持ち、株主総会で議決権の10%を持ちます。AKB48のCDをたくさん買った人が応援するメンバーを次のシングル曲の歌い手に入れられるように、大きな議決権があれば役員人事を左右することもできます。
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 上記の貸しはがしは、銀行の自己資本が大きくなれば緩和されます。日本政府をはじめ各国政府が銀行への資本注入(株券を発行させて買う)に踏み切ったのは、自己資本を増額させるためです。
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 企業が利益を上げれば、その一部は配当として株主に配られますし、配らずに持っているお金が多かったり将来の利益が見込まれたりすると、株式そのものの価格が上がります。株式会社の株式は原則として譲渡できますから、株の値上がり益と配当を合わせたものが株主の手に入ります。
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 公的資金注入を申請する銀行は、経営に不安があると市場から見られて株価下落などが起こることを心配します。ですから一定の基準を設けて、政府が一律に資本注入することもあります。
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**社債、国債
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 2008年夏以降、比較的経営体力のある金融機関がいくつか、自ら社債(国際的な規制の中で自己資本に算入できる、特殊な形式のもの)を発行して自己資本を(数年のあいだ)増やしています。
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 株の配当は「利益が出たとき、その利益の範囲で」受け取れるものです。社債はこれとは違って、「企業が利子をつけて特定期日にお金を払う」約束をするもので、つまり普通の貸し借りです。企業が赤字になっても、約束したお金は返さないといけませんし、逆に儲かっても余計にお金を受け取ることはできません。同様に、国債も政府の借金です。それらは債券という市場取引に適した標準的な形になっているので、売り買いできます。
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 しかし、公的資金注入は上記の貸し渋り(中小企業の収益力への厳しい見通し)に対する対策にはならないでしょう。
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 一般には株式は債券よりリスクが高いものとされていますが、「ひょっとすると事業に行き詰まって倒産する(借金が返ってこない)かもしれない企業の社債」はもちろんリスクが高く、それに見合った高い利率がつきます。最も極端なものは、紙くず(になるかもしれない)社債という意味で「ジャンク債」と呼ばれます。
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=== 企業の資金調達(2) 世界とつながるメリットとデメリット===
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**不動産、REIT
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*国際基準の足かせ(バーゼルII)
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 不動産も、値上がりを待って売ったり、賃貸マンションやオフィスビルを建てて家賃を取って経営したりすれば、立派な投資対象です。しかし株や社債に比べると投資単位が大きくなりがちなので、REIT(不動産投資信託)という仕組みが用意されています。REITという金融商品をたくさんの人に少しずつ売って、そのお金で不動産を買って運用し、家賃収入から分配金をTEITを持つ人に払うのです。
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 前回の講義で述べたように、バーゼルIIまたは新BIS規制と呼ばれる、国際的な業務に参加する銀行が守るべき自己資本比率規制は、貸し渋りの背景であり、貸しはがしの原因になります。国際取引へ参加する門戸を発展途上国の銀行などに開いておくには、形式的で明確な参加資格を定めることが必要です。ここでは、市場参加の機会を確保しておくことに、経済的というより政治的な意味があると考えるのが分かりやすいでしょう。
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**金、原油、小麦
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*ヘッジファンド問題
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 いろいろや貴金属、資源、農産物なども、価格の変動があれば差益を得ることができますから、ファンドが財産を運用するときの選択肢になります。
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 1997年のアジア通貨危機や、英ポンド危機において、ヘッジファンドと呼ばれる類型のファンド(個人やチームに運用を任された、巨額の金融資産)が国際金融のプレイヤーとして注目されました。
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**デリバティブ(仕組債を例として)
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 2008年(9月の問題が起きる前)には、業界雑誌の推計によると、1兆円以上のヘッジファンド資金を集める企業は60社ほどありました。ただし、ファンドは細分化されることが普通で、マネジャーへの運用報酬ランキングから考えると、1兆円以上を個人で動かせるファンドマネジャーは世界で数人だと思われます。そしてヘッジファンド自体、年金ファンドなど他の機関投資家に比べれば、量的には大きな存在ではありません。
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 例えば次のような条件の債券があるとしたら、あなたは買いますか。
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[http://www.iimagazine.com/Rankings/rankingsHeFu100RGlobal08.aspx Institutional Investor: 2008 Hedge Fund 100]
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(1)募集期間は2013年12月いっぱい。原則として5年後の2018年12月31日に元金を返す。
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 ただしこれはあくまでも、世界の金融資産に占める比率の話です。ひとつの国に集中的な売り買いが入れば、資産相場を乱高下させてしまう可能性はあります。それぞれの国には少なくとも、その国から逃げ出すことが出来ず政治的要求を突きつけられた、政府や中央銀行というプレイヤーがいます。それらが足元を見られ、不利な取引(市場介入)を強いられる可能性はあります。
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(2)元金を返すまで、毎年3・6・9・12月に元金の0.25%を利子として払う。つまり1年に1%。
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(3)もし利子を払う日に、日経平均株価が2013年12月1日に比べて5%値上がりしていたら、すぐに元金を返し、その日を含めて以後の利子は支払わない。
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 銀行預金で1%も利子をくれるものはありませんから大変結構に聞こえますが、(3)は何を言っているのでしょうか。もし最初の3か月で株の値上がりが来れば、利子は一銭ももらえません。
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 株は上がるか下がるかわからないものです。「株を買うための資金」を銀行から借りようとしたら、返せなくなる可能性を考えて銀行は高い利子を取るでしょう。それを年に1%で済ませながら、5%値上がりするチャンスをじっと待つ。もし長いこと値上がりが来なかったら、債券を買った人の勝ち。これが債券の発行者のもくろみなのです。
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 こうした類の債券を仕組債といいます。「~だったら」といった条件の付いた金融商品をデリバティブといいますが、この例にあるように必ずしも買った人に不利ではなく、むしろひどく有利に見えるのに、実際に抱えているリスクの大きさを見積もることが難しいという問題点があります。だから実際に巨額の損失が出たとき、それを予想できていないのであわてるのです。
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=== 日本の株式市場と円相場 ===
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*円安で海外から日本市場はどう見えるか
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 さて、あなたがアメリカドルが通用するどこか(アメリカとは限りません。日本にも長いこと宋銭や明銭が通用していた時期があったのを思い出してください)のファンドマネジャーだとします。円安になると、日本の株も債券もドルに直せば安く見えます。他の国の資産価格はそのままで、日本だけ値下がりしたことになります。リンゴが値下がりするとみかんを買うのを減らしてリンゴを増やすように、あなたはいくらか日本株などを今までより増やそうと考えるのが自然でしょう。2012年12月の円安が、外国ファンドの日本株買いを急に増やし、その後の株高につながった大きな理由はこれでした。
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 しかし、すでに日本株を持っていた外国人や外国ファンドにとっては、円安は保有資産の値下がりです。だから今後の値下がりが続くと予想する人は、日本株を売ってドルに戻してしまうかもしれません。同じ「円安」が「日本株高」と「日本株安」をもたらす両方の効果を持つのです。
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 2008年のリーマンショック後、アメリカドルは他の通貨の多くに対して切り下がりました。中国政府は、ドル安・人民元高によって保有しているアメリカ国債などの価値が下がったので、アメリカ政府に不満を述べたようですが、アメリカ政府は逆に「中国は人民元と外国通貨の交換を政府が管理して、市場で決まる交換比率より人民元を安めにしている」という不満を持っていました。アメリカ政府がこの問題について明確に何かを実行したというニュースはないので、多分何もしなかったでしょう。中国がアメリカ国債を買わずに何か代わりのものを買おうとすると、あまりにも巨額なのでそれがすぐ値上がりしてしまい、中国はちっとも得ができません。ですから中国はアメリカ国債を以前ほどには買わなくなりましたが、それでも相当な額を買い続けています。
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*円相場や日本株相場はこれからどうなるのか
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 日本株を買おうとする外国人は、特に日本を愛しているわけではありません。得だと思えば買うし、もっと得をするチャンスができれば日本円も日本株も撃って乗り換えます。だから「円相場や日本株相場はこれからどうなるのか」は、「もっと有利な投資先が生まれるか」に左右されます。というより、ふたつは同じ問題だと言ってもいいくらいです。
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 2011年から2012年にかけての日本円があれほど強かったのは、ユーロ圏が壊滅的な経済混乱に陥るリスクが強く意識され、日本円が安全だと思われたことが最初の理由です。ところがそれによって日本円が「値上がり」したため、株などを買うより日本円そのものを持って値上がりを待つと、かなりの確率で得をすることができたので、ますます円が買われてしまったのです。
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 2012年末から、日本政府要人の円安誘導発言は面白いように大きく相場を動かしました。これは上の話とは逆に、アメリカ企業の業績回復(=景気回復)とヨーロッパ経済の小康、また日本の経常赤字継続とヨーロッパの経常赤字縮小を受けて、アメリカ株式市場など有望な資金の動き先が現れ、円が「値下がり」しそうだという予想が生まれ、その流れに乗れば儲かるという思惑を多くの人々が持ったからでしょう。
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 円安のマイナス面(輸入物価の上昇がもたらす様々な影響)が輸出の好調を打ち消すほど円安が進んだり、イタリア政局の成り行きなどでヨーロッパの経済状況が再び悪化する予想が広がったりすれば、再びリスク回避のために円が買われる(そして株式市場には投入しないで預金でじっと持たれる)日が来るかもしれません。日本企業の業績好転が予想されたほどでなかった場合も日本株は売られるでしょうし、下手をすると円も日本株も同時に下がるかもしれません。
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 そして、もし円安によって日本の輸出が急伸することになれば、雇用を確保して国民の不満をなだめたい日本以外全部の国の政府は、日本政府に対して円安の流れを止める何らかの政策を取るよう要求してくるでしょう。こうなると政治問題ですから、何が要求され、何が実行されるのかは経済学の枠の外で決まるとしか言えません。
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=== 投機と実需 ===
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*貿易と投機
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 例えば外貨に例を取ると、輸出入のためには外貨と円の交換が必要になります。こうした、金融市場の外にある市場での取引のために必要とされる外貨(と円)の需要を実需と言います。ある取引が実需かどうかは、交換した通貨と額のデータだけがあっても判断できないので、実需以外の外貨交換を区別して取り扱うことは困難です。
*投機の規制と取引自由の原則
*投機の規制と取引自由の原則
425 行 529 行
[http://www.47news.jp/CN/200808/CN2008082201000171.html この問題を伝聞として報じた、共同通信社によるニュース。サイト「47ニュース」は地方新聞社と共同通信社の共同運営]
[http://www.47news.jp/CN/200808/CN2008082201000171.html この問題を伝聞として報じた、共同通信社によるニュース。サイト「47ニュース」は地方新聞社と共同通信社の共同運営]
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*リスクオン、リスクオフ
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 銀行預金は銀行の経営が悪化しない限り、預けたお金が戻ってこないこと(元本割れ)は起きません。一方で、株のように毎日値段が上がったり下がったりしている金融商品は、不景気でも損をするとは限りませんし、景気が良くても得をするとは限りません。
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 株のようにリスクの高い金融商品(リスク商品)は、政治の混乱などで「先行き何が起こるか予想しにくい」状況になると売られ、もっと価値が下がりにくそうなもの(安全資産)が買われることがあります。こういうファンドや個人の行動をリスクオフと言います。逆に、経済が安定してビジネスが順調に伸びそうだと、安全資産が売られ、リスク資産が買われます。これをリスクオンと言います。こうした流れが変わるたびに、金融資産の価格や利回りは大きく変化します。
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 すでに述べたように2008年以降の円高は、リーマンショックで深い傷を負ったアメリカとEUから、日本国債や円建ての預金が安全資産とみなされて資金が流入したことが大きな原因です。リスクを避けたいというのが動機ですから、日本株はあまり買ってもらえなかったのです。
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*「短期マネー」の危険
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 これもすでに述べたように、ファンドと言っても大きなリスクを取ってせかせかと資金を動かすものと、市場の流れを見極めてゆっくり動くものがあります。前者の「短期マネー」で国内の資産価格がつりあがっている場合、それらが別のもっと有利な市場へ一斉に動いたり、あるいは世界のどこかで大損失を被ったために、赤字を穴埋めすべく国内資産を一斉に投げ売りされたら、資産価格は暴落してしまいます。だからといって、短気マネーだけを見分けて別の規制をかけることは、実際にはなかなか困難です。
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=== インフレとインフレターゲット ===
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*先生、消費税率アップはインフレに入りますか
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 入りません。ここでは税抜き価格の話をしていると思ってください。
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*インフレとはどういうことか
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 インフレにはコスト=プッシュインフレとデマンド=プルインフレがあるとよく言われます。例えば原油価格が上がったとき、ガソリンなどの石油製品や、それらを使って作るプラスチックなどが値上がりし、さらにそれらを使って生産する製品に波及していきます。これがコスト=プッシュインフレの典型的な姿です。円安はあらゆる輸入品の価格を引き上げますから、広範なコスト=プッシュインフレを起こすと考えられます。
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 デマンド=プルインフレは、好況で需要が供給能力を超え、入手を競い合って価格が高騰するものです。もちろんこんなことが日本で近い将来実現するとは思えませんし、もし実現したら過熱した景気を抑え込むべき段階かもしれません。ただ日本経済が急速に成長していた時期には、特定の建材が足りないからビル工事が遅れるとか、特定の部品が間に合わないから生産ラインが止まるとか、小さなボトルネックがあちこちにできて、それが結局ゆるやかな価格上昇につながったことは多かっただろうと思います。
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 賃金=物価スパイラルという現象もインフレにはつきものです。物価が上がると労働者の生活が苦しくなり、賃上げ圧力がかかります。ところが実際に賃上げが実現するとそれが価格に転嫁され、また物価を押し上げてしまうのです。スパイラルとはこのふたつの関係を「らせん」に例えた表現です。所得向上が物価上昇より速ければ生活は豊かになりますし、逆ならだんだん生活が苦しくなっていきます。
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*なぜインフレのほうがデフレよりいいのか
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 賃金も物価も10%上昇するのだったら、自動販売機屋さんに新しい仕事ができるくらいの意味しかないように聞こえますね。「デフレ脱却」はなぜ重要なのでしょうか。
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 お金を借りる(貸す)契約は、たいていインフレに対応していません。例えば物価も収入も2倍になるということは、1円の値打ちが半分になるということ。100万円を借りていた人は、返す負担が昔の50万円くらいに軽くなるということです。「インフレの世界」は「お金を借りていると得をする世界」と言ってもいいでしょう。
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 住宅ローンを背負ったり、企業資金を借りたりした人たちは、インフレの世界では前向きの経済活動に負担軽減のご褒美を受けることができます。逆にデフレの世界では、「お金を持っていたら得、チャレンジしたら重い負担」ということになるのです。
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 もちろん一番得をするのは、巨大な借金を抱えた日本政府です。インフレの時期に政府の債務負担が小さく済むことを「インフレ税を徴収する」と表現することがあります。日本政府の借金が減れば、昔の借金を返すよりも、前向きの用途に税金を使うこともできます。
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*物価上昇率計測に潜む問題点
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 物価を調査すると言っても、実際に人が買うものはバラバラです。調査すると言っても、どうすればいいのでしょう。
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 例えば「消費者物価」は、「家計調査」という別の調査とリンクしています。全国で数千の家計を選び、細かい家計簿をつけてもらいます。日本の家庭が何にどれくらいお金を使っているかがこの調査で分かるので、そのそれぞれの価格がどれだけ上がったか下がったかを家計調査とは別に調査して、消費者物価指数を出すのです。消費者物価指数の他に、企業が事業のために買い入れるものの価格をはかる企業物価指数や、日本全体でGDPの構成要素が平均どれだけ値上がりしたかを見るCDPデフレーターなどがあります。
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 しかし例えばレトルトカレーといっても、1000円を超える高級なものから4袋398円の包装までケチったものまでピンキリです。それを「代表的な銘柄」を選ぶことで処理しています。例えば「レトルトカレー」の代表として「ボンカレーゴールド辛口」を選んだとしたら(これは実際に選ばれているものではありません)、それが全国で実際にいくらで売られているかが調査され、記録されるわけです。
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 この方法の問題は、その銘柄が物価上昇期には別の新製品と入れ替えに販売中止になりやすいことです。例えば「〇〇」を販売中止にして、よく似た中身の「〇〇セレクト」を高い値段で新発売すれば、消費者に対する値上げの悪印象を薄められるというわけです。こうした場合、その商品はしばらく調査対象から外し、また新しい銘柄で調査を再開することになりますが、値上げの影響は指数に現れないままです。だから消費者物価指数はインフレを低めに計算してしまうという批判があります。
=== 2008年9月危機はなぜ起こったか ===
=== 2008年9月危機はなぜ起こったか ===
444 行 596 行
 経済学でバブルと呼ばれるのは、「自己実現的な期待」です。値上がりが予想されるあいだ、それを保持したほうが儲かるので買い手がつき、買い手がつく間は実際に上昇し、予想が実現するのです。それが実需(実際にその価格で小麦を消費したいという欲求)であるかどうかは問題ではありません。誰かが買うなら値上がりする。値上がりするなら誰かが買う。それだけです。
 経済学でバブルと呼ばれるのは、「自己実現的な期待」です。値上がりが予想されるあいだ、それを保持したほうが儲かるので買い手がつき、買い手がつく間は実際に上昇し、予想が実現するのです。それが実需(実際にその価格で小麦を消費したいという欲求)であるかどうかは問題ではありません。誰かが買うなら値上がりする。値上がりするなら誰かが買う。それだけです。
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 ニューヨーク原油先物は、2008年7月には2006年末の2倍半に近い価格をつけ、以後下落に転じました。反転のタイミングを何が決めたのか、はっきりとはわかりません。2008年7月にアメリカ証券委員会(SEC)が、下落不安のあった金融株を対象に、空売り(株を持っていないのに一定価格で将来売る約束だけすること。その価格を下回って下落したときは、その値段で買ってすぐ渡せば差額を手に入れられる)を一時的に規制しました。そのことが直接間接に影響したとも言われます。大山巌氏が解説する要因のほか、禁止されていない銘柄や手段の空売りもSECに注目される懸念があって、原油先物買い・株式先物売りの組み合わせが取りづらくなったとする解説もあります。
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 ニューヨーク原油先物は、2008年7月には2006年末の2倍半に近い価格をつけ、以後下落に転じました。反転のタイミングを何が決めたのか、はっきりとはわかりません。2008年7月にアメリカ証券委員会(SEC)が、下落不安のあった金融株を対象に、空売り(株を持っていないのに一定価格で将来売る約束だけすること。その価格を下回って下落したときは、その値段で買ってすぐ渡せば差額を手に入れられる)を一時的に規制しました。そのことが直接間接に影響したとも言われます。
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[http://diamond.jp/series/stock_market/10033/ 原油先物が急反落! 市場で囁かれる3つのワケ(大山巌) 2008年7月30日 DIAMOND Online記事]
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[http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/080716/fnc0807161853015-n1.htm 空売り規制強化へ 米SEC金融株急落に緊急命令(MSN産経ニュース 2008年7月16日)]
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 一般には、バブルを止める根本的な要因は、価格の高さです。これ以上上がるという予想が誰にも持てないほど高くなれば、バブルは止まり、崩壊します。このころの価格は、もうそうした水準だったのかもしれません。
 一般には、バブルを止める根本的な要因は、価格の高さです。これ以上上がるという予想が誰にも持てないほど高くなれば、バブルは止まり、崩壊します。このころの価格は、もうそうした水準だったのかもしれません。
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 中国の家計貯蓄率を国家レベルで調査した数字は存在しないようです。いくつかの部分的な調査結果によると、家計貯蓄率は平均で20~30%で、日本であれば貯蓄率が下がってくる高齢になっても下がらないのが特徴です。老後や医療の社会保障が充実していないためだといわれます。この数字は日本よりはるかに高いものですが、GDP統計でみると国全体の貯蓄率はもっと高くなっています。そうだとすれば、差額は企業の貯蓄だと考えるのが自然です。国内の企業金融市場が不安定で信用されていないことから、利益を上げた企業が内部留保を積んでいると考えられます。
 中国の家計貯蓄率を国家レベルで調査した数字は存在しないようです。いくつかの部分的な調査結果によると、家計貯蓄率は平均で20~30%で、日本であれば貯蓄率が下がってくる高齢になっても下がらないのが特徴です。老後や医療の社会保障が充実していないためだといわれます。この数字は日本よりはるかに高いものですが、GDP統計でみると国全体の貯蓄率はもっと高くなっています。そうだとすれば、差額は企業の貯蓄だと考えるのが自然です。国内の企業金融市場が不安定で信用されていないことから、利益を上げた企業が内部留保を積んでいると考えられます。
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*[参考]日本には何が出来るのか?
 
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 巨額の財政赤字を抱えている政府も含めて、世界の主要政府が次々に財政出動を伴う景気刺激策を打ち出しています。世界経済を覆う不安感を払拭しないと負の連鎖が続くばかりです。
 
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 ある意味で、他国の景気刺激策が輸出を通じて日本の景気を回復させることを待つのがいちばん得なのですが、それは世界の恨みを買う行為でしょう。
 
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 貯めすぎる中国、使いすぎるアメリカにはさまれて、日本もまたアンバランスな点を持っています。輸出産業が産業の中心でありすぎる、という点です。自国通貨が強くなって青い顔をしているのは、ある意味で妙なことです。これ以上の財政赤字拡大は、ついに国債の日銀引き受けに追い込まれるかもしれませんが、それは強烈な円安材料となって輸出産業を利します。内需向け産業の育成と国際的な需要喚起を兼ねて、ここは財政出動か、消費喚起につながる所得移転をするのが最善の政策でしょう。
 
=== 反グローバリゼーション、保護貿易、ブロック経済 ===
=== 反グローバリゼーション、保護貿易、ブロック経済 ===

最新版

目次

このページについて

これはH25(2013)年度夜間後期開講、ミクロ経済学特講の講義ノートです。

講義のテーマ、進行方法など

 この講義は、講義中に話し合うこと、考えをまとめて文書に書くことを重視します。いくつかの(単純な)ミクロ経済学のモデル中に現れる合理的行動が、いろいろな市場でどのように現れるかを考えていきます。

 講義のテーマは、最近世界経済で猛威を振るう「グローバリゼーション」です。世界がひとつの市場につながってしまったことによって、誰にとっても得をした面と損をした面があります。それらはなぜ起こったのでしょうか。

 今回と4年前の講義の間に、東日本大震災が起こりました。貿易収支、次いで経常収支も赤字となり、新聞のトップニュースもずいぶん様変わりしました。いまや所得収支の黒字が日本経済の生命線といってもいい状況です。ですから今回は、所得収支に現れるような金融取引を「金融商品の価格決定」という観点から前回より大きく取り上げようと思います。使う言葉は全然違いますが、価格が上がったり下がったりする理屈には似たところが多いのです。

講義内容

基本原理

  • 裁定と一物一価の法則

 経済合理的行動をする人が、ひとつのものに別の場所で(あるいは別の売り手・買い手によって)2種類の価格がついているのを見つけたとします。安いほうから買って高いほうに売れば、差額を手に入れることが出来ます。こういう取引を裁定といいます。

 すべての裁定機会が抜け目なく利用されると、その結果、ひとつのものにはひとつの価格がつくはずです。これを一物一価の法則といいます。

  • 規制と資源配分のゆがみ・ムダ

 市場メカニズムの働きを政府が邪魔しないことを主張する人たちの根拠は、大きく分けてふたつあります。ひとつは、取引価格や数量への制限、取引の禁止、あるいは特定の取引だけへの課税が資源配分のゆがみやムダを生むからです。

 例えば京都府だけが「深夜コンビニ営業」を禁止したとします。大阪・奈良・滋賀などの府県境に開店しているコンビニは越境客でにぎわうでしょう。深夜に営業しているファミリーレストランの売店は客が増えるでしょう。軽トラックで行商を試みる業者が出現するかもしれません。いずれにしても消費者は、今までと同じものを得るために交通費や時間を余計に使い、不便を感じます。

 実際に起こった、多くの受講者に身近な例は、TASPO導入でしょう。この政策はまったく正当な(ただし経済的なものではない)目的を持っていましたが、自動販売機に頼っていた煙草小売店とコンビニエンスストアのバランスを大きく変化させました。自動販売機という販売手段を利用するための消費者にとってのハードルが上がったことで、煙草を買える場所は減少しました。

  2005 2013
自販機設置台数 61.62万台 32.75万台
自販金額(売上) 1兆9625億円 5895億円

日本自動販売機工業会調べ

 いずれの場合も、特定のタイプの取引を制限することで、誰かに余計な費用が発生し、限りある生産要素(モノに限らず、時間なども)がそれに使われます。

「資源配分のゆがみ」は、例えば国産農産物を保護するために、農産物輸入を禁じた場合に起こります。輸入禁止がない場合よりも、国産農産物は余計に作られるはずです。ただし国民は割高なものを買わされますし、もっと安く農産物を作れるはずの国や地域は、作っても買ってもらえないので生産能力を生かせません。国内で農産物生産に使われる労働や資材を外国へ持って行って生産に使えば、同じだけ生産してもまだ余るでしょう。余った分は、現在はムダに使われている、ということになります。

 資源配分のゆがみは、「余分に作られるもの」や「売れないので少ししか作られないもの」ができるので、結局せっかくの生産要素を活かしきれず、ムダにつながるのです。

 もうひとつの根拠は、競争を制限すると独占企業の中でムダが放置され、その余計な費用は結局消費者や納税者が払うようになることです。

  • 規制の網を乗り越える

 いまの話にも出てきましたが、規制があると、それを乗り越える方法を工夫する人が現れます。そのことによって、規制の実効は上がらず、規制を乗り越える工夫が余計な費用を生むだけ、という結果もありえます。

 例えば1988年まで、日本は国内農家保護のため、牛肉輸入量を制限してきました。ところが、生きた牛の輸入は制限されていなかったので、輸送機で生きた牛を日本に輸入することが行われました。もちろん、食べられる部分だけを日本に輸入するほうが輸送費は安上がりです。

 企業に余計な費用をかけさせる結果を承知のうえで行う規制もあります。自動車が典型的ですが、国内産業を育てるため、完成車に自動車部品より高い関税をかけ、国内で組立作業を行うよう政府が企業を誘導することはよく行われます。少なくともその国の自動車産業が発展するまでは、わざわざ効率の悪い工場で組立作業を行うことになります。

 こうした規制は、短期的な経済効率を犠牲にして、別の政策目標(例えば長期的な産業発展)を追求するものです。ですから、「デメリットに見合ったメリットがありそうか」が問題になります。

  • 規制主体(政府)には国境がある、企業には国境はない

 2007年~2008年のサブプライム危機を根深くしたのは、タックス・ヘイヴンに多くのファンドが置かれ、それらのファンドを欧米の規制当局が直接把握できないので、「誰がどれくらい損しているのか互いにわからない」ことでした。実際に救済に乗り出せるのは税源を持った各国政府しかなく、ECにも加盟せず独自の金融立国を目指したアイスランドは孤立無援に陥りました。

 取引で利益を得る可能性がある限り、実質的には市場はどんどん広がっていきます。企業もそれにつれて多国籍化したり、多国籍で提携を結んだりします。国家の規制を離れた市場が思わぬ疑心暗鬼に陥り、誰にも手の打ちようがない事態をもたらしたのが2008年のリーマン・ショックでした。かといって、国家の力では取引全体を把握・規制することも不可能なのが現状です。

 例えば、EU加盟国全体に同じ銀行規制を敷き、やっていいことと悪いことを統一しようとする提案に対して、現に国際的な金融の中心となり、そのことで国内に多くの雇用を確保しているイギリスは反対しています。そんなことをされたら、いまロンドンが果たしている役割はEUのどこでもいいことになります。また、欧州全体の金融機関から金融取引税(FTT)を取り立て、金融機関救済のために各国が使い、これからも使うかもしれない公的資金を埋め合わせようとする提案にもイギリスは反対しています。いまイギリスで盛んに行われている金融取引から、全EUであがるFTT税収の半分以上が徴税されると言われており、イギリスに落ちていた利益がEU共通の財布に召し上げられてしまうからです。


  • 契約自由の原則

 契約自由の原則は主に私法(民法)の言葉ですが、経済活動の大前提でもあります。人や企業は、原則としてどんな契約でも自由意志で結べる、というものです。これが満たされない世界は、政府が徳政令で私人と私人の契約を無効にしたり、契約を履行させる民事手続を提供しなかったりする世界です。確かに「後から見れば好ましくない」取引はあるのでしょうが、それを個別に政府が否定・修正することを認めると、安定的な経済活動の基礎が崩れてしまいます。

財の貿易

  • お前は確かにいい仕事をするが、世界じゃ二番目以下だ

「グローバリゼーション」を短く説明すると、「世界がひとつの市場になってしまうこと」でしょうか。貿易制限や関税を互いに取り払う努力と、1980年代~90年代のソビエト・東欧社会主義政権崩壊、そして中国の開放政策の結果、政策的に切り離されていた市場が減り、どこのものでも自由に買えるようになりました。

 言い換えれば、同じものなら、世界で一番安いものだけが売れ、いままで売れていた「世界じゃ二番目以下」のものは売れなくなるということなのです。

 日本でも1990年代以降、多くの軽工業製品(例えば漆器)、そしてもちろん食品が外国製品との競争に負け、販売量や販売額を減らしました。

 市場メカニズムは既得権を保護しません。アメリカの家電メーカーなんて聞いたことがありますか(アメリカ最後のテレビメーカーは1995年に韓国メーカーの子会社になりました)? 日本が家電製品や自動車を輸出し、自分の石油代金を払えるようになるまで、世界中でライバルと戦い、ライバルが成長する芽を摘んできたのです。

  • 安く作れば安く売れる

 よく「中間マージンを抜くから安い」と宣伝している業者がいますが、卸や小売店も競争していますから、「何もしないで稼いでいる部分」はあまり残っていないのが普通です。もし残っていたら、それは政治的な問題で参入が制限されているケースで、競争を仕掛けることそのものが難しいでしょう。

 安く売るための基本は、安く作ることです。多くの場合、賃金が一番安い国で作ることです。労働もまた、市場メカニズムに乗ったサービス(形のない有価物)なのです。一番安い労働だけが売れますから、賃金の安い国が世界市場に参加してくるたびに、世界中の賃金がそれによって下落圧力を受けます。

 アメリカでは非正規雇用全体を指してコンティンジェント(条件付)雇用と呼びます。企業にとって安くつく雇用形態があれば、その雇用形態を増やすことは、労働者全体から見ると実質的に賃金の切り下げです。この点は別の節でもっと詳しく扱います。

  • ソシアル・ダンピング

 1930年代、世界に先駆けて世界大恐慌から回復しようとした日本は、安価な綿製品をインドに輸出したことでイギリスの反発を招きました。日本は国全体をわざと低賃金にして輸出価格を下げている、という批判が寄せられ、ILO(リンクしている報知新聞記事では現在と異なり、国際労働局と訳されています)から現地調査が行われる事態になりました。こうした対立が繰り返され、各国が自国通貨経済圏外からの輸入に高率の関税をかける事態となり、第二次大戦へとつながっていきました。

 だからグローバリゼーションを推進する自由貿易の考え方は、取引から締め出される(貧しいままに置かれる)国を作らないことが世界の安定に必要だ、という政治的な考慮からも支持されて来ました。それだけ、グローバリゼーションによる損得勘定は複雑であると同時に、戦争につながるほどの死活問題であり続けてきたのです。

神戸大学電子図書館 新聞記事文庫 日本(25-119) 報知新聞 1934.10.7(昭和9) 「ソシアル・ダンピング日本には存在せぬ モーレット氏の終結的報告」

法政大学大原社会問題研究所 大原デジタルライブラリーより『日本労働年鑑 第65集 1995年版』「第一章 ILO創立から日本の脱退まで(一九一九~一九三八年)」

 中国の人民元レート問題も、こうした文脈で見れば古い問題の再登場です。中国は人民元と外貨の交換を当局がコントロールし、巨大な貿易黒字で得た外貨をそのまま政府の外貨準備として蓄積し続け、ついに世界一の外貨準備を持つに至りました。特にアメリカは、中国が人民元レートを切り上げ、輸出を抑制して貿易黒字を減らすよう断続的に要求しているようです。

In late 2006, Mr. Paulson invited Mr. Bernanke to accompany him to Beijing. 
Mr. Bernanke used the occasion to deliver a blunt speech to the Chinese 
Academy of Social Sciences, in which he advised the Chinese to reorient 
their economy and revalue their currency.

"Chinese Savings Helped Inflate American Bubble" Published: December 25, 2008, NYTimes.com(ニューヨーク・タイムズ紙)

ばらされる財(産業内貿易)

  • ドリームチームとしての工業製品

 例えばHDD磁気ヘッドのTDKのように、特定の部品でシェアの高いメーカーはいろいろな産業にあります。それを国際的に集めて、トータルで一番安上がりな製品作りを完成品メーカーが競い合っているのが現状です。

  • 高付加価値製品への傾斜

 例えばCD-Rは日本で開発された製品です。主要な生産国は台湾ですが、CD-Rに塗る磁性体は主に日本製です。いちばん高い技術を要する部分だけが日本国内に残っているわけです。

  • 韓国の対日貿易赤字はなぜ大きいか

 韓国は高い技術を要する部品や高度な工作機械の多くを日本から輸入しています。韓国が輸出で好調になるほど、日本からの輸入が増える構造が、韓国の外貨準備が増加しない原因になっています。

  • モジュラー型生産方式と労働問題

 自動車部品を完成車メーカーが買って組み立てる場合に、従来より大きい単位まで組み立てたものを買う(例えばフロントパネルと計器類を別々に買うのでなく、フロントパネルに計器類を取り付けた状態で買う)傾向があり、これをモジュラー型生産方式といいます。

例えば造船の「ブロック工法(block assembly)」や標準建材を汲み上げるプレハブ住宅は、モジュラー
型生産システムより長い、50年以上の歴史を持ちます。モジュラー型生産システムがどれくらい新しい
概念であるかについては、議論があります。

 モジュラー型生産方式が従来より広く見られるようになった原因はいくつか考えられていますが、そのひとつは、高賃金で強力な労働組合を持つ完成品メーカー労働者の仕事を、より低賃金なサブアセンブリ(中間的な組み立て)メーカーの労働者でなるべく多く置き換えるためだと言われています。

従来から自動車部品には、大きく分けて次の3種類があるといわれて来ました。
-承認図部品 完成車メーカーの仕様書に会うよう、部品メーカーが設計図を描く。
-貸与図部品 完成車メーカーが設計図を描いて渡し、部品メーカーはその通りに作る。
-市販品 自動車以外にも使われる部品や材料。その分野の専門メーカー(大企業も多い)から購入する。
日本の承認図部品メーカーは開発段階から完成車メーカーにパートナーとして選ばれ、秘密を共有しつつ
共同開発に関わって来ました。その中で最大のものはトヨタに空調部品・エンジンプラグなどを提供する
デンソーで、燃費向上や環境基準達成にとって決定的に重要なトヨタのガソリンエンジン制御システムには
デンソーの技術が貢献しています。フォードやGMが1990年代に部品生産部門を別企業に分離したのは、
こうした技術開発パートナーを育てるためだったのでしょう。ただしその後のビッグスリーを襲った
業績低迷で、どちらの子会社も経営は思わしくありません。
  • 安い部分は安いところから

 ひとつの財を複数の部品に分け、それぞれ一番安いところから買うことはよく行われています。同じ財であれば、トータルで最も安く生産できる企業が価格競争に勝ちます。

何と何が同質なのか

  • ベルトラン競争と品質差別化

 例えば限界費用cでいくつでも生産できる財があったとします。同じ生産技術を持つ企業同士が競争すれば、市場価格はcになるまで値引き合戦となります。たとえ正の固定費用がかかる財でもそうなりますから、利潤はゼロかマイナスになってしまいます。こうした「限界費用一定」の2企業価格競争を特にベルトラン競争といいます。

 こうなってしまったらどう企業努力を重ねても利潤はゼロ以下ですから、そういう状況に陥らないように多くの企業は努力します。つまり「自分の財は他社の財とは別種の製品だ」と消費者にアピールして、他社より少し高くても納得して買ってくれるよう努力するのです。「品質とは何か」と考え始めるとそれだけで半年くらい講義できてしまいますが、そこは考えないことにして、他社と異なる品質の製品を生産することを品質差別化といいます。

 別の言い方をすれば、品質差別化とは「自社製品の市場を類似品の市場から切り分け、できるだけその市場の独占企業に近づく」ということです。一物一価の法則が働く市場メカニズムの下で、違う価格を得ようと思ったら、違う市場の違う財にしてしまうしかないのです。

  • ブランド化戦略と無数のシカバネ

 自社ブランドを認知してもらえば価格競争から部分的に抜け出せます。完全には抜け出せませんが、少しノーブランドの製品より高くても、消費者が認めて買ってくれます。

 農産物の産地ブランドを含めて、「他社とは違う・他産地とは違う」ことをアピールする試みは常に、無数の企業や団体によって行われていますが、価格差をつけても売上が激減しないほどの肯定的な認知に成功する例はその一部です。作る側は差をつけたつもりでも、買う側がそんな点を評価しなければ、高い価格の製品を買いません。

 近所のスーパーマーケットへ行って、生卵の売場を見るのが、この話を実感する一番簡単な例でしょう。一番安い卵は10個200円くらいで、一番多くのパックが並べてあるのは、その一番安い卵だと思います。もっと安い価格で「おひとりさま1パック限り」の特売をしているかもしれません。それを目当てに店にやってくるお客が、他の物も買っていくことをお店は期待しているのです。

 それほどパックが並んでいないけれど、値札・名札が大きくて、目立つ場所においてあるのが、10個250円くらいの卵(のうちひとつのブランド)だと思います。「このくらいの価格差ならアピールすれば売れる」とお店が考えているのでしょう。

 そして、もっと高い価格の卵も並んでいるはず。「大きい」「新鮮で安心」「栄養価が高い」「特に卵のおいしい品種から生まれた」などというアピール点がパックや値札・名札に書いてあるでしょう。いくつかのブランドは、テレビなどで宣伝もしています。あなたが消費者として魅力を感じる程度は様々でしょう。魅力が小さければ、わざわざ高い卵は買わないでしょう。

  • プライベートブランド、ダブルブランド

 特定の小売チェーンにしか置かない約束で小売チェーンが作ってもらっている商品をプライベートブランドといいます。コンビニチェーンにはたいてい、そのチェーン専用の商品がたくさんあります。

 他のお店に売れなくなることは、売れ残りリスクをその店(とメーカー)が全てかぶることになります。しかし「違うもの」と認知されれば、小売チェーンも他のライバルとの価格競争から逃れることができます。

 アメリカでは「メーカーや卸が大手チェーンにだけ安く販売すること」が日本より厳しく禁じられています。しかし違うものに違う価格をつけることは禁じられていないので、日本よりも早くからプライベートブランドが広がりました。つまり大手チェーン専用の製品を作ってもらって、それを安く売ってもらうのです。だからアメリカの規制は、中小小売店が大手チェーンと競争するうえで、期待されたほどには助けになりませんでした。

 メーカーが同じような製品をわざと別ブランドで売ることもあります。安売りをうたう大手チェーンで安く売っていることがわかると、もっと小さな店で高い価格を払っている消費者がそっちに行ってしまうからです。また、「他店より一円でも高ければ値引き…」とうたっているような家電量販店では、メーカーにそのチェーン専用の商品を作ってもらい、他店との比較を免れることがよく行われます。あくまでこれは部分的なものですが、チェーン限定商品が目立つ位置におかれていることもよくありますから、利益面では売上比率以上の比率で貢献しているのでしょう。

  • 他と同じものを売らないメリットとデメリット

 アオスジアゲハというチョウがいます。青緑の模様が羽根にあるこのチョウは、都会で一番普通に見られるアゲハチョウです。なぜ多いかと言うと、都会によく植えられている木の葉を、幼虫が他のアゲハチョウより幅広く食べることが出来るからです。逆に、ジャイアントパンダは他のクマが食べない竹を食べることで新たな生息地を得ましたが、数十年に一度起きる竹の大量枯死があると大打撃を受けてしまいます。

 他と同じものを売らない/作らないようにすると、競争相手は減るのですが、買い手の幅も狭くしてしまいます。また、インターネットの普及などで遠くの売り手・買い手と取引できるようになると、今まで競争がなかった分野に競争が起こって、競争に負けてしまうこともあります。

  • [参考]ブランド間競争とブランド内競争

 中小小売店やその団体は、他店で安売りがあると、メーカーや卸に苦情を言います。大手チェーン以外の販路も切り捨てられないと考えるメーカーは、その苦情を聞き入れて、小売店間の価格差が大きくなり過ぎないようにいろいろな手段をとります。あからさまに取引停止などをテコに値下げをしないよう要求したりすると独占禁止法違反になりますから、もっとマイルドな手段しか取れません。

 メーカーのライバルは他のメーカー(ブランド間競争)であり、小売店のライバルは他の小売店(ブランド内競争)です。小売店はどのメーカーの製品が売れてもよいのだし、メーカーはどこの小売店が自社製品を売ってくれてもよいのです。小売店は赤字の目玉商品(ロス・リーダー)を作って他の小売店から客を引き寄せ、他の物もついでに買ってもらうことで採算を取ろうとすることがありますが、そんなことを許せばそのメーカーの製品はどの小売店からも値引きを要求され、メーカーが保ちません。価格を維持するためには、メーカーは販路を絞り、できるなら取引小売店や取引卸が競合他社製品を扱わず、ブランド内競争を刺激しないことを望みます。流通系列化は多くの産業でみられますが、メーカーは卸や小売店をひきつけておくために大きな費用負担を強いられます。

国境を越える人々

  • 外国人労働者問題

 伝統的な貿易理論のモデルでは、「財は貿易できるし資金も国境を越えて運用先を変えられるが、労働者だけは移動できない」と仮定するのが普通でした。別の言い方をすれば、労働は非貿易財の代表でした。しかし実際には、昔から国境を越えた労働者の移動はよくあることでした。

 そして、低賃金労働者として働き口を探す結果、受入国の住民は仕事が奪われたと感じ、摩擦や忌避を起こすことがありました。

  • アメリカのコンティンジェント労働-そしてみんな派遣になった-

 アメリカでも正社員以外のコンティンジェント(条件付)労働者が、正社員と大きな賃金格差を持っていることが問題になっています。それ以外の先進国でも非正規雇用は広まっており、賃金格差があります。

 高付加価値部門がもっぱら先進国で競争力を残す分野となった結果、自らの差別化に成功して高給を得るタイプの人材と、外国人労働者との競争にさらされる人材の待遇格差が広がり、後者は不安定で企業の費用を最小化する雇用形態でも働き手が見つかるようになった、と考えられます。

  • 労働における先任権と荒れる若者

 多くの先進国で、労働組合は組合活動を行ったことによる差別待遇を退ける意味もあって、先任権を求め、獲得して来ました。これは、レイオフ(一時帰休)などの不利益を後から雇われた順に課し、昇進や上位職への転換機会は雇われた順番に与える、というものです。この制度は、不況期に若者へしわ寄せが集中するという欠点を持っています。

 いったんこの制度が確立した社会では、職に就けないといつまでたっても先任順位が得られず、好況になったころにはその時点での若者が良い職を占めてしまうおそれがあります。こうした場合、若者の士気阻喪を防ぎ、就業を促進することは社会を安定させるためにも重要になります。

  • 労働市場を閉鎖したら?

 例えば外国人労働者を排除すれば、企業の労働コストは上がり、その国の製品は売れなくなり、結局仕事がなくなってしまいます。労働市場「だけ」を人為的に操作しても、他の市場での不利益は防げません。他の国の安い労働で作られた製品が、国内市場ですら消費者の支持を得るでしょう。

 逆に、比較優位のない国内産業を守ることが(ソーシャル・ダンピングとまったく逆に)国民の生計費を押し上げ、賃金水準を上げる圧力となって、産業の国際競争力を損なう可能性があります。イギリスが工業立国として生きることを優先させる政治的決定をして、国内農業を保護する穀物条例を廃止したことは、産業革命期の歴史的な決定でした。

「国民への所得分配」と「賃金水準を国家がコントロールすること」を切り離して考えるべきかもしれません。もちろん、所得分配の原資は企業の支出した全てのもの(賃金給与、配当、利子…)からいくらかずつ得ることになります。この問題は(市場メカニズムの話ではなくなってしまいますが)別の機会にもっと詳しく取り上げたほうがいいでしょう。

  • 解雇権濫用法理

 解雇には正当な理由がなければならない、という法律は実は日本にはありません。判例があります。1975年の日本食塩製造事件で最高裁が示した判例に、この考え方がうたわれました。解雇権濫用法理と呼ばれています。もちろん業績悪化は解雇の理由としてダメだということではなく、整理解雇の四要件と呼ばれる手順や条件を満たすことが判例上要求されています。要するに正社員を首にするには、日本ではお金と時間がかかるのです。

 この考え方は、「すでに正社員になった人」の身分を守ります。しかし雇う側は慎重になるので、「これから正社員になろうとする人」のチャンスを狭める面があります。

 アメリカのコンティンジェント労働者が全労働者に占める比率は、日本の27.4%(厚生労働省「毎月勤労統計調査」2009年7月、事業所規模5人以上)に比べればそれほど大きな数字とは思えませんが、いつでも首にできるならパート・アルバイトの形式を取って区別する必要がない、ということかもしれません。

労働政策研究・研修機構(JILPT) 国別労働情報(アメリカ)

平成15年版『労働経済の分析』(厚生労働省) 就業形態の多様化に関する国際比較 (第II部第2章第2節 5))

労働者の値打ちと暮らし

  • 人的資本-高く売れる労働とは

 例えば1980年代にはプログラマー不足論が叫ばれ、専門学校などから多くのプログラマーが業界に供給されました。しかし企業が自社業務に合わせた専用ソフトを開発することをやめ、パッケージソフトや汎用ソフトのマクロ(例えばExcelで動く簡単なプログラム)で済ませるようになると、プログラマーへの需要はしぼみました。業界からは多くのプログラマーがはじき出され、他業種への不利な中途採用を強いられました。

 時代によって不足が叫ばれる職種、高給な職種は変わっていきます。人間は生産のための人的資本であり、教育は人的資本への投資であるとする考え方がありますが、その資本価格は人の標準的な一生の間に大きく変動することがあります。

  • 企業特殊的投資と関係特殊的投資

 例えば資格試験の対象になる技能は、現場でも試験場でも、別の企業の現場でも発揮できるような技能でしょう。

 しかし「その企業の仕事や連絡先に慣れていて、処理が速い」ことも一種の技能で、ビジネスの効率を左右します。その企業をその人が離れれば、その人は一から勉強のしなおしで、その技能は価値を失います。ホワイトカラー(事務職)にはよくあることです。

 こうした企業特殊的技能を伸ばすための教育・訓練を企業特殊的投資といいます。本人にだけその投資を任せると、企業にとって投資は過少になります。かといって、企業が費用を出しすぎると、汎用的な人的資本まで価値が上がってしまい、もっと高給で他の企業に引き抜かれてしまうかもしれません。引き抜いた企業は引き抜かれた企業の訓練費用をタダ取りして、成果を労働者本人と山分けにするのです。

 例えば派遣社員や契約社員にこうした企業特殊的技能を自分で伸ばせと言っても、言うことを聞かないでしょう。逆に言うと、正社員は企業にとって取替えの効かない技能を何か身につけないと、ある日突然、企業によってもっと給与の安い社員に置き換えられてしまう危険がある、ということです。しかしもちろん、企業そのものが倒産や合併にあえば、自分の積んだ企業特殊的投資もムダになります。

 取引先との関係についても、企業特殊的技能を広げて考えることができます。関係特殊的技能とでも言っておきましょうか。例えば取引先が担当者を交代させたり、合併で取引の仕方を大きく変えたりすると、こちら側が積んでいた関係特殊的技能も失われます。

 一時期の若者に比べると、最近の若者は会社での人間関係に投資する姿勢を強めていることを示唆する調査があります。組織全体で潤滑油が足りなくなると自分もまずい、と気づいているのかもしれません。ただ企業も中の人間も移り変わりが激しくなると、そうした投資が以前より無駄になりやすいこともまた事実です。

キリン食生活文化研究所 レポートVol.15 「新社会人の飲酒意識と仕事観」に関する調査について(調査は2009年2-3月)

■「社会人になったらお酒を飲む機会が増える」と答えた人は約8割で、
優先したい相手では“会社関係優先派”が昨年度より7.3ポイントアップ。
逆に“プライベート優先派”は7.5ポイント減。


  • 幸福の定義

 企業と労働者の関係はギブアンドテークです。賃金・給料に見合う何かを提供していく必要があります。そして、相手が欲しがるものや高く評価するものは、相手の事情や社会の変化で長い間に少しずつ変わっていきます。

 その一方で、労働者は金銭からだけ幸福を得るわけではありません。家庭、地域、趣味の世界など、職場以外の場で生きがいや社会的評価を得ることを積極的に考えておくと、勤務先の盛衰にすべての人生をかけて、倒産などで全てを失うリスクを下げられます。

 それは言い換えれば、自分の中での幸福の定義を考え直すことでもあるでしょう。

  • [参考]養成所ビジネス

 あこがれの職業・職種につくための学校は、それ自体がビジネスです。プロとして収入を得られる人々の数と、各種の養成学校が送り出す卒業生の数は一致するとは限りません。そして、志望者が多いということ自体が需要と供給のバランスを動かし、その職種の賃金を下げる材料として働きます。


利子率はどうやって決まるのか

  • 貸す(預ける)側の理屈

「A:今日100円もらう」「B:明日100円もらう」あなたならどちらがいいですか? 同じ消費をするなら、将来よりも今がいいと考えるのが普通でしょう。じゃあ「B':明日101円もらう」だったらどうでしょう。AよりもB'という人が、今度はいるかもしれません。100円を1日だけ余計に他人の自由にさせることで、1%の利子を取ってしまったことになりますね。年率に直すと365%。

 個人個人で、「101円ならいいかな」「102円は欲しいな」などと、「消費を明日に伸ばしてもいいな」と考えるギリギリの水準には差があるでしょう。例えば「1日我慢するなら1%余計に欲しいな」という人は上のB'をAの代わりに(ぎりぎり)受け入れるでしょう。この人は「1日あたり1%という時間割引率を持っている」といいます。時間割引率は煎じ詰めると、個人の好みです。「正しい」時間割引率なんかありません。もし「お金を借りたい人(いま何かを買いたい人)」と「お金を貸してもいい人(消費を先に延ばしてもいい人)」がたったひとつの「お金の市場」で向き合っているとしたら、利子率は「お金の価格」であり、価格が上がるほど市場に「お金」が供給されるでしょう。

  • 借りる側の理屈

 これに対して、借りる側はいま手に入れたお金で、すぐ何かを買うことができます。例えばお金を借りてマイホームを買うとしましょう。マイホームは買ったときから何十年もの間、快適な生活をくれますし、プライドも満たしてくれます。自分で貯金して何十年後にマイホームを買うことに比べると、利子は余計に払わなければなりませんが、マイホームから受ける各種の効用を長いこと受け取ることができます。どれぐらいの満足を見込めるかで、払ってもいいと考える利子率は異なるでしょう。

 効用を得るためのほかに、人がお金をお金を借りるもう一つの主な理由は、生産活動をするためです。設備を買い、人を雇うために1000円使って、製品を売って1年に1100円の売上が見込めるなら、年に10%の利子率でその1000円を1年借りても損にはなりません。もうかる仕事であるほど、高い利子率を払っても黒字が出るので、何もしないより借りたほうが得です。

  • 利子率を高める・低める要因と金融政策


 たいてい、お金を借りた側が効用や売上を予定通り得られるかは不確実です。例えば人や企業が破産すると借金は取り立てられなくなりますから、儲からずに破産する確率が高ければ、利子率を高めにしないとお金を貸す人がいません。結果の不確実さを一般にリスクと呼びますが、リスクが大きいので余計に払う利子率などをリスク・プレミアムといいます。

 保存してもあまり傷まない商品が、もうすぐ値上がりすることがわかっていたら、取っておいて後で転売しようとみんな考えるので、今から値上がりしてしまいます。お金の場合もそうで、何十年後に将来利子率が上がるかもしれないとみんな思っているときは、貸し手は今の利子率で長いことお金を貸したくありません。長いこと貸すなら、今より高めの利子率でないと貸そうとしません。今は超低金利ですから、これ以上利子率が低くなる余地はほとんどなく、いろいろな理由で上がる可能性はあります。ですから5年くらいの住宅ローンなら金利(利子率)は安いのに、30年とか35年とか長期の住宅ローンを組もうとすると、ぐーんと高い金利で契約しないと銀行はお金を貸してくれません。「将来高くなる予想が人々に広がる」ことを「先高感がある」といいますが、みんなが利子率に先高感を持つと現在の利子率も上がりますし、逆なら下がります。

 お金にも代替財があります。例えば「金」や「プラチナ」がそうですし、他国の通貨も外国に口座を持ったり、外国通貨の札束を持ったりすることで、自国通貨の代わりに貯蓄や取引に使えます。だから他国に有望な儲け話があれば資金はそちらに行って、自国で資金の貸し手が減って利子率が上がってしまうかもしれませんし、逆に他国から貸し手が現れればその国での利子率は下がるでしょう。このことは今年の講義を理解するポイントで、世界でお金を動かしている人の立場が想像できるようになれば、新聞で報じられる金融市場の動きはずいぶん理解できるようになるのです。

 利子率は「貨幣の価格」ですから、高いと資金が「売れない」ことになり、経済活動縮小につながります。利子率やその他の金融指標をコントロールすることで、経済全体をコントロールすることを金融政策といいます。

  • 効率的市場仮説

 例えば「アメリカで株価が下がっている」「外国為替市場で円高ドル安方向に相場が変化した」というニュースは東京証券取引所を利用する株の売り手や買い手にすぐ流れ、東証での株式相場が下落する材料になります。

 市場参加者が、取引に関係するすべての情報を遅れずに知り、あらゆる予測を瞬時に修正している、という仮説を効率的市場仮説といいます。もちろんそんなはずはないのですが、どの情報がどんなふうに伝わらないと考えるかは人それぞれで合意が得にくく、証拠を示すことも大抵できないので、効率的市場仮説を受け入れて議論をしたほうが現実の大枠をつかめることがあります。

  • 直接金融と間接金融

 家計や機関投資家(保険会社とか年金基金とか)が株式・社債を買うことや、機関投資家が個別に融資することを直接金融といいます。これに対し、銀行など金融機関が預かったお金を貸すことを間接金融といいます。

 企業の信用(収益性や倒産の可能性)は判断が難しく、判断材料を集めるには費用がかかります。無名の企業が社債を発行しようとしても、利率が非常に高くなるか、誰も買ってくれないかです。だから銀行の審査を受けて、リスクに見合った利率で貸し付けを受けるほうが現実的です。

 資金が国境を超えることに規制が強く、間接金融の比率が高いとき、銀行の標準的な貸出金利(プライムレート)や中央銀行から市中銀行への貸出金利(公定歩合)を上下させることで、中央銀行は利子率のコントロールが可能です。しかし1960~1970年代のアメリカで、証券会社・信託銀行の扱う金融商品への規制や国際資金移動への規制が緩くなると、規制に縛られた間接金融から、もっと有利な取引機会を求めて資金が逃げ出す「dis-intermediation」が起こりました。例えば個人が銀行預金をする代わりに、証券会社へ行って株式や社債を買う傾向が強まりました。特に世界的にインフレが起きた1970年代に、銀行金利がインフレへの調整が遅くて実質的に(=物価上昇率を考えると)低くなってしまい、利回りが自由につけられる社債のほうが有利になって、強い規制をしていては銀行業が成り立たないという危機に陥りました。

 それで1980年代以降の金融政策は利子率の直接コントロールから、貨幣量を増やしたり減らしたりして(公開市場操作)金融全体を緩めたり縮めたりすることに移行しました。

  • 貨幣量

 大雑把に言えば、マネーストック(貨幣量)は「銀行預金残高+中央銀行券発行残高」です。言い換えれば「支払い手段として誰もが認めるものの総額」ですが、クレジットカードなどが登場して、意味はあいまいになりました。クレジットカードで毎月使える額にはたいてい限度がありますが、それは預金残高とは関係ありません。マネーストックの中で、「市中銀行が中央銀行に預けている当座預金残高+中央銀行券発行残高」をマネタリーベースと言います。マネーストックは、マネタリーベースをもとにお金を借りたり支払いの約束をしたりして、金融機関同士で作り出された部分が大きいと考えられます(信用創造)。

 利子率は「貨幣の価格」ですから、貨幣量を増やせば利子率は下がるはずです。以前日本銀行がとっていた「量的緩和政策」は、マネタリーベースがある目標額になるように公開市場操作で資金を供給するというものでした。

 ただし貨幣量を増やし利子率が下がっても、個々の融資案件に焦げ付き懸念があると結局中小企業の資金繰りは良くなりません。1991年のバブル崩壊までは、日本では土地の価格はほぼずっと上がり続けていました。だから中小企業の業績が悪くても、工場などの土地建物を担保に設定して、借金が返せなければ担保をもらうように契約していれば、銀行は安心できたのです。ところが地価の下落で土地が担保として当てにならなくなると、銀行は企業の業績(利益がどれくらいあるか)に基づいた審査をせざるを得ず、今まで貸してもらえたお金が貸してもらえなくなる企業が続出しました。いわゆる「貸しはがし」には国際基準バーゼルIIを引き金とするもの、銀行が赤字に陥らないために引当金を取り崩そうとするものなどいろいろな原因がありますが、「赤字だとお金が借りられないという当り前のことが現実になったから」というのも原因のひとつなのです。

  • 様々な資金調達手段

 企業が資金を必要とするとき、様々な調達方法があります。

    • 株式を追加発行(増資)します。株式を買った人は企業の部分的な所有者となり、持っている株数に比例した株主総会での議決権を持ちます。利益が上がったとき、株主総会の承認によりその一部を配当として受け取ります。利益が上がらないときの配当は禁止されていますし、倒産したときはまず他の負債を払って、残りを株数に比例して受け取れるだけです。何も受け取れない可能性もあります。
    • 社債を発行します。決まった年数の後、社債の所有者に元金を返し、それまでのあいだ一定間隔で決まった利子を払います。社債の所有者は、社債を他の人に売るかもしれません。信用のある企業ほど、低い利子で社債を買ってもらえます。
    • 銀行などから融資を受けます。期間や利子については相談して契約します。
    • 手形やコマーシャルペーパーを発行します。短期間の社債と考えればいいでしょう。商品を仕入れてから、売れて現金が手元に出来るまで30日、45日といった期間支払いを待ってもらうための約束手形が典型的な手形です。コマーシャルペーパー(CP)は取引とは関係なく発行される手形で、よく知られた優良企業が短期の資金繰りのために発行します。

  • 資本コストとMM定理

 株・社債・銀行融資など手段を問わず、企業が資金を調達するため最低限かかる利子率に相当するものを資本コストと言います。理屈から言えば、企業は株式の追加発行、社債発行、銀行融資などのうちから「資本コスト」が一番安い方法で資金調達しようとするはずです。そうなると、どの調達方法も同じ資本コストになるよう利子率などが調整されるはずです。これがモジリアーニ・ミラーの定理(略してMM定理)と呼ばれる有名なモデル分析結果の実質的な意味です。

為替レートはなぜ動く

  • 通貨もまた商品である

 私が学生のころに聞かされた古典的な冗談に、「最近話題の東京外国為替市場へ視察に行くから手配しておくように」と国会議員に言われて大弱りした秘書の話があります。「東京外国為替市場」などという建物や団体はないのです。通貨の交換に従事する金融機関やブローカーが互いに交換を提案しあって、一物一価の法則どおり、交換レートについてその時間その時間の相場ができているのです。

 交換レートが上がる通貨は、なにかの理由でその通貨が今までより必要とされているのです。

  • フローアプローチとマネタリー(ストック)アプローチ

 ストックとフローは経済の動きを考える上で重要な区別です。通貨同士の交換レートを考えるためにも重要です。

 例えば日本は長いこと、巨額の貿易黒字を稼いできました。貿易黒字は「その期間の輸出額-輸入額」ですから、フローの概念です。日本に貿易黒字があると、通貨交換市場は「円が足らず、外国通貨が余った」状態になります。日本に円で支払いをしないといけないんですからね。だから交換レートが円高に調整されるはずです。1ドル=100円だったものが1ドル=90円とか1ドル=80円とかの交換レートになるわけです。

 このような調整がいろいろな通貨間で行われると、貿易赤字や貿易黒字がなくなる方向に為替レートが調整されるはずです。もう少し厳密に言うと、外国人労働者や外国企業の本国への送金、観光収入や特許料など形のないサービスへの支払いを貿易収支に加えた経常収支について、どの国も赤字や黒字が小さくなるように調整されるはずです。こうした考え方をフローアプローチといいます。

 しかし現実には、こうしたメカニズムで為替レートは動いていないようです。少なくとも固定相場制が崩壊した1970年代半ば以降は、ストックアプローチによる為替レート決定の説明が広く受け入れられています。もっとも、未来を予想することはやはり難しいのですが。

 為替レート決定にとってのストックとは何でしょう。過去の経済活動で積みあがった、世界中にある金融資産(現金、預金、株式、債券など)をまず思い浮かべてください。金融資産以外のストック(不動産など)も金融資産の取引と互いに影響を与え合います。

 例えば東京証券取引所「投資部門別売買状況」で「株券」の「外国人売買における法人、個人の数値」を東証一部について見ると、2008年10月~12月のうちに東証一部の株だけで、外国人投資家は約3兆円の売り越しを出しています。買った株より売った株の代金がそれだけ多いのです。もちろん株が下がったから売って債券などを買った分もあるでしょうが、2008年9月の世界的株安で欧米のファンドが大打撃を受けたので、売れるものを売って本国に送金したことの影響が大きいでしょう。だからリーマンショックの直接的な損失は日本にはほとんどなかったのに、日本での株安がやっぱり襲ってきました。

 日本からアメリカへストックを送金する動きは、円を手放してドルに両替しようとするので、円安ドル高の変化を促します。しかし現実にはこの期間に、大幅な円高ドル安が進みました。比較的株暴落の打撃を受けておらず、日本銀行は急に通貨の価値を落とすような金融政策を取りそうにないので、欧米の株式市場や商品市場(原油や穀物も暴落しました)から逃げ出した資金が円資産に逃げてきた(でも株を買ってはくれなかった)のです。

東京証券取引所 投資部門別売買状況

  • 円キャリー取引

 日本は長引く平成不況を抜け出すため、2000年代に異例の低金利状態が続いていました。一方、アメリカの株式市場は好調な値上がりを見せていたので、「日本で低利の借金をしてアメリカの株式市場や不動産市場に投資する」ことがよく行われました。アメリカ向けでないものも含めて、日本で借金をしてすぐ外貨に替えて運用する取引を円キャリー取引といいます。

 円キャリー取引は、円を手放してドルを求める取引ですから、為替レートを円安ドル高方向に動かしました。2005年後半から2007年にかけて1ドル=115~120円の時期が続き、輸出産業が日本の景気回復を引っ張りましたが、これは輸出に有利な為替レートが影響しました。2007年になるとサブプライム危機が顕在化してアメリカ株式相場が伸びなくなり、2008年9月を迎えるずっと前から、円キャリー取引の「巻き戻し」による円高傾向への変化が起きていました。

  • アメリカの高金利政策

 アメリカは1980年代に、外国資金でアメリカ国債を円滑に消化しようとして、高金利政策を採りました。この結果、貿易赤字を出し続けているのに金融取引でドルが買われ、今と比べればドル高円安でした。その裏返しとして、日本の貿易黒字は膨れ上がりました。

 1985年にこの状況を是正するため、プラザ合意によってドル安円高誘導のための国際協力態勢ができ、一気に円高が進みました。

 高金利政策といっても、資金は「利率が一定値を越えた国」ではなく「いちばん利率の高い国」に流れることに注意してください。「円キャリー取引」の項で述べたように、日本の低金利政策によって、日本とそれ以外の金利差はここ数年、非常に大きくなっていました。

 2008年9月以降、世界各国の低金利誘導(日本と同じ不況対策)によって、日本とそれ以外の金利差は急速に縮小しています。これは円高材料だと考えられます。

 現在でもトルコなど、海外の資金で社会資本(道路など)や工場を作ることを最優先に考えている国は、金利を高めに誘導して海外資金を呼び込む政策を取ります。自分の国の通貨が「値上がり」するので、輸出には不利になる副作用があります。

国際社会でお金を稼ぐ3つの方法

  • 国際収支、経常収支、貿易収支

「いま日本の国際収支は赤字ですか黒字ですか」といった質問は、古典的な引っ掛け問題です。引っかからないように覚えてください。どんな国であろうと、国際収支は(理屈の上では)赤字にも黒字にもなりません。国際収支を構成するいくつかの要素のどれが黒字になり、どれが赤字になるかが国の状態を示すのです。もっとも実際の統計では、貿易の記録と金融機関の記録が合わなかったりして、日本の場合は少ない年でも数千億円、多い年は4兆円を超えるほどの「誤差脱漏」が出ます。

国際収支は、経常収支+資本収支+外貨準備増減です。どれかが赤字になれば(または減少)、どれかが黒字になります(または増加)。3つ足したら0になる「はず」なのです。

 まず考える練習のために、経常収支の一部である貿易収支だけを考えましょう。仮にある年、日本の輸出が輸入より1兆円多かったとします。その1兆円は誰かが持っているはずですね。どこに? タンスの中か、銀行預金か。でも貿易なんですから、受け取ったときには外国の貨幣だったはずです。話を簡単にするために、それがアメリカドルだとしましょう。アメリカ相手の貿易ではなくても、国際的によく使われている通貨で契約することはよくあるようです。日本の誰かが(たぶん銀行ですよね)、アメリカドルを1兆円分余計に持つようになりました。

 これは、ややこしいですが、1兆円分の資本収支赤字が生じたということなのです。もうかったのに赤字? ポイントは、日本人のものであるお金が外国へ1兆円分出て行ったのと同じ格好になっていること。日本人が円で持っている資産を1兆円分ドルに換えて、アメリカの株か何かを買うためにアメリカドルに両替しても、同じ状態になりますよね。まとめると、

資本収支の黒字 外国から資金が入ってくること。

資本収支の赤字 外国にお金を貸したり、借金を返したりして、資金が出てゆくこと。貿易黒字を使わずに貯めておいてもこうなる。

 ドルに換えてから、そのお金で株を買ってもアメリカ国債を買っても、資本収支は増えも減りもしません。だって「1兆円分の」資産を持っていることは変わらないのですから。

 さて、経常収支の話をしましょう。経常収支は貿易収支+サービス収支+所得収支+経常移転収支です。形のある有価物を財、形のない有価物をサービスと呼ぶことはミクロ経済学で習ったと思います。東日本大震災以後、日本が急に液化天然ガスを今までより多く買うようになり、これが貿易収支を赤字にしました。特許の使用料、著作権収入、観光収入などがサービス収支に含まれる取引の例です。日本のサービス収支はもともと少し赤字です。所得収支は日本が外国にある資産から稼いでくる利子・配当や子会社利益の送金(外国に払う分を差し引く)で、これがかなり黒字です。経常移転収支は労働者の仕送りなどで、これもわずかに赤字です(日本で働く外国人の母国への仕送りのほうが、逆のケースより多額だということですね)。

 残念ながら、所得収支の黒字で貿易収支の赤字をカバーしきれず、日本の経常収支は赤字になってしまっています。

 外貨準備の話は後で刷るとすれば、経常収支が赤字であるなら、資本収支は黒字でなければなりません。経常収支が赤字であったので、外国に円資産を持たれている状態です。外国に対する借金が増えている……という説明は単純すぎますが、企業の株主が外国人ばかりになったり、日本国債の多くを外国人が買ったりしているところを想像して下さい。資本収支の黒字がたまるというのは、そういうことです。

 もちろん、これは必ずしも悪いことではありません。例えばオーストラリアは炭鉱や鉄鉱の設備投資のために外国の資金を借り、その利子を払いながら資源を輸出しています。イギリスは海外の資金を受け入れて有利に運用する、いわば金融立国政策を取っているので、資本収支の黒字と国内の雇用確保が両立しています。

 ただ日本のように過去の政府負債が膨大に溜まっている国で、金融資産の多くが外国人のものになって、何かをきっかけにその資金が一斉に日本から引き上げられたりしたら、日本は大変です。だから経常収支赤字というう現状を見て、何もしないでいるのは危険なのです。

 最後に、外貨準備の話をします。これは「政府が持っている外貨建て資産」です。よく「アメリカ国債を一番多く買っているのは日本か中国か」という話題が持ち出されますが、外貨準備をドル預金で持たず、相当な部分をアメリカ国債で持っているわけです。円高が進まないように円を売ってドルを買う「(円売りドル買いの)日銀介入」が行われることがありますが、日銀は政府の基金を使って(もちろん、財務省と相談しながら)介入をすることになっています。だから円売りドル買いの日銀介入があると、外貨準備は一気に膨れ上がることがあります。逆に円の価値を保つ円買いドル売りの日銀介入をしようと思ったら、外貨準備が十分にないと実行できません。

 このように、外貨準備(高)の額が問題になるのは為替市場に介入するときくらいなので、この講義にとってはあまり重要ではありません。

  • 経常収支を黒字にする方法(1)労働の安い国になる

 世界で一番賃金の安い国になるのが、仕事を増やして外貨を稼ぎ、特に貿易黒字を稼ぐ古典的な方法です。日本もある時期にはそうでした。ただ、仕事をしただけ豊かな暮らしをしたいと当然みんな考えますから、やがては賃金水準が上がり、他の国に仕事を取られてしまいます。

 この考え方のバリエーションとして、労働者を出稼ぎに出して経常移転収支を稼ぐ方法があります。もちろん、労働者が稼ぎに行った国では「仕事を取られる」と嫌な顔をされる面もあるでしょう。

 観光収入はサービス収支を改善しますから、経常収支を黒字の方向に「改善」するために観光の振興は有効です。現実には、「観光以外に産業がない」地域は膨大な貿易赤字を出すので、観光「だけ」で経常収支を黒字に持ってゆくことは困難ですが、補完的な政策としては有効です。

  • 経常収支を黒字にする方法(2)外国に投資して利子・配当で稼ぐ

 多くの先進国(の企業や家計)は、発展途上国よりも人口構成が高齢化していることもあって、過去に稼いだ資産を持っています。外国に工場を建てたり、外国企業の株を買ったりしています。2012年12月現在、サムスン電子の普通株は50%が外国人の所有ですが、自己保有株式を分母から除くと比率は50%を超えます。優先株に占める比率はもっと高く、サムスン電子の利益はいろいろな国の株主に分け与えられています。

 リーマンショック以後、アメリカ企業の業績やアメリカ企業の株価は回復していったのに、失業率などの労働事情はそれほど改善しなかったことがアメリカで政治問題化しました。つまり、もうからなくなった事業を切り捨てたり、縮小した売り上げに見合わない雇用を切り捨てたりすることでアメリカ企業の業績は回復し、それらの株を持っていた人や組織の資産も値上がりしたのに、資産を持たない労働者はちっとも暮らし向きが回復しなかったのです。所得収支に経常収支改善を頼ることは、国内の分配問題を先鋭化させる副作用があります。

  • 経常収支を黒字にする方法(3)先鋭技術を国内に確保して資本財輸出と知的所有権収入で稼ぐ

 例えばCD-Rはほとんど日本で作られていませんし、DVDやBDも海外で作られているものが多いのですが、情報を記録するための記録色素は三菱化学メディアなど日本メーカーが生産し輸出しています。こうしたキーになる技術だけを手元に置き、その生産や技術供与で稼ぐことができれば、こんないいことはありません。

 世界中の先進国、そしてもちろん先進国になろうとする国々が技術を欲しがり、技術を磨いて来ますから、日本に限らず、自国に残る雇用はそれほど大きくなりません。しかしそれが国全体が食べてゆく競争力の源泉であることは確かです。

 

ファンドマネージャーから見た世界

  • ヘッジファンド問題

 1997年のアジア通貨危機や、英ポンド危機において、ヘッジファンドと呼ばれる類型のファンド(個人やチームに運用を任された、巨額の金融資産)が国際金融のプレイヤーとして注目されました。

 2008年(9月の問題が起きる前)には、業界雑誌の推計によると、1兆円以上のヘッジファンド資金を集める企業は60社ほどありました。ただし、ファンドは細分化されることが普通で、マネジャーへの運用報酬ランキングから考えると、1兆円以上を個人で動かせるファンドマネジャーは世界で数人だと思われます。そしてヘッジファンド自体、年金ファンドなど他の機関投資家に比べれば、量的には大きな存在ではありません。

Institutional Investor: 2008 Hedge Fund 100

 ただしこれはあくまでも、世界の金融資産に占める比率の話です。ひとつの国に集中的な売り買いが入れば、資産相場を乱高下させてしまう可能性はあります。それぞれの国には少なくとも、その国から逃げ出すことが出来ず政治的要求を突きつけられた、政府や中央銀行というプレイヤーがいます。それらが足元を見られ、不利な取引(市場介入)を強いられる可能性はあります。

 ファンドの種類によってマネジャーに課せられた制約は異なりますが、「少しでも有利な商品で利子や配当を稼ごうとする」基本的な立場は同じです。「ファンドマネージャーの身になって」市場を見ることができれば、市場の理解は大きく進みます。

  • 年金ファンド

 ハイリスクを冒してハイリターンを目指す類型がヘッジファンドだとすると、リスクを取ることをしばしば非難されるファンドの代表が年金ファンドです。こうした慎重な態度の、そしてヘッジファンドよりも巨額な資産を運用するファンドが買いに出てくると、その金融商品が値上がり傾向にあることが広く認められたしるしになります。

 企業が従業員のために設定する企業年金のマネジャーが、高利回りだと誘われてハイリスクな商品を買い、大きな損失を出してしまうケースが後を絶ちませんが、これは小規模な資産を運用する団体が運用の専門家を内部で育てられない・雇えないことが重要な原因です。もちろん素人だからだまされるのかというと、代表的な財界団体である経団連もリーマンショックでは資産運用で相当額の損失を出していますから、リーマンショック前後の例外的な状況を代表例のように言うのは適切でないのかもしれませんが、そうした場合に以前からの問題点が噴出したとも言えます。

  • 運用先の選択肢
    • 株式

 一番シンプルな株式投資は、株式会社の設立に出資して、株式を受け取ることです。例えば「資本金1000万円」で設立された株式会社は、その1000万円を株主たちから出してもらったのです。Aさんがそのうち100万円を出したとすれば、Aさんは株式の10%を持ち、株主総会で議決権の10%を持ちます。AKB48のCDをたくさん買った人が応援するメンバーを次のシングル曲の歌い手に入れられるように、大きな議決権があれば役員人事を左右することもできます。

 企業が利益を上げれば、その一部は配当として株主に配られますし、配らずに持っているお金が多かったり将来の利益が見込まれたりすると、株式そのものの価格が上がります。株式会社の株式は原則として譲渡できますから、株の値上がり益と配当を合わせたものが株主の手に入ります。

    • 社債、国債

 株の配当は「利益が出たとき、その利益の範囲で」受け取れるものです。社債はこれとは違って、「企業が利子をつけて特定期日にお金を払う」約束をするもので、つまり普通の貸し借りです。企業が赤字になっても、約束したお金は返さないといけませんし、逆に儲かっても余計にお金を受け取ることはできません。同様に、国債も政府の借金です。それらは債券という市場取引に適した標準的な形になっているので、売り買いできます。

 一般には株式は債券よりリスクが高いものとされていますが、「ひょっとすると事業に行き詰まって倒産する(借金が返ってこない)かもしれない企業の社債」はもちろんリスクが高く、それに見合った高い利率がつきます。最も極端なものは、紙くず(になるかもしれない)社債という意味で「ジャンク債」と呼ばれます。

    • 不動産、REIT

 不動産も、値上がりを待って売ったり、賃貸マンションやオフィスビルを建てて家賃を取って経営したりすれば、立派な投資対象です。しかし株や社債に比べると投資単位が大きくなりがちなので、REIT(不動産投資信託)という仕組みが用意されています。REITという金融商品をたくさんの人に少しずつ売って、そのお金で不動産を買って運用し、家賃収入から分配金をTEITを持つ人に払うのです。

    • 金、原油、小麦

 いろいろや貴金属、資源、農産物なども、価格の変動があれば差益を得ることができますから、ファンドが財産を運用するときの選択肢になります。

    • デリバティブ(仕組債を例として)

 例えば次のような条件の債券があるとしたら、あなたは買いますか。

(1)募集期間は2013年12月いっぱい。原則として5年後の2018年12月31日に元金を返す。

(2)元金を返すまで、毎年3・6・9・12月に元金の0.25%を利子として払う。つまり1年に1%。

(3)もし利子を払う日に、日経平均株価が2013年12月1日に比べて5%値上がりしていたら、すぐに元金を返し、その日を含めて以後の利子は支払わない。

 銀行預金で1%も利子をくれるものはありませんから大変結構に聞こえますが、(3)は何を言っているのでしょうか。もし最初の3か月で株の値上がりが来れば、利子は一銭ももらえません。

 株は上がるか下がるかわからないものです。「株を買うための資金」を銀行から借りようとしたら、返せなくなる可能性を考えて銀行は高い利子を取るでしょう。それを年に1%で済ませながら、5%値上がりするチャンスをじっと待つ。もし長いこと値上がりが来なかったら、債券を買った人の勝ち。これが債券の発行者のもくろみなのです。

 こうした類の債券を仕組債といいます。「~だったら」といった条件の付いた金融商品をデリバティブといいますが、この例にあるように必ずしも買った人に不利ではなく、むしろひどく有利に見えるのに、実際に抱えているリスクの大きさを見積もることが難しいという問題点があります。だから実際に巨額の損失が出たとき、それを予想できていないのであわてるのです。

日本の株式市場と円相場

  • 円安で海外から日本市場はどう見えるか

 さて、あなたがアメリカドルが通用するどこか(アメリカとは限りません。日本にも長いこと宋銭や明銭が通用していた時期があったのを思い出してください)のファンドマネジャーだとします。円安になると、日本の株も債券もドルに直せば安く見えます。他の国の資産価格はそのままで、日本だけ値下がりしたことになります。リンゴが値下がりするとみかんを買うのを減らしてリンゴを増やすように、あなたはいくらか日本株などを今までより増やそうと考えるのが自然でしょう。2012年12月の円安が、外国ファンドの日本株買いを急に増やし、その後の株高につながった大きな理由はこれでした。

 しかし、すでに日本株を持っていた外国人や外国ファンドにとっては、円安は保有資産の値下がりです。だから今後の値下がりが続くと予想する人は、日本株を売ってドルに戻してしまうかもしれません。同じ「円安」が「日本株高」と「日本株安」をもたらす両方の効果を持つのです。

 2008年のリーマンショック後、アメリカドルは他の通貨の多くに対して切り下がりました。中国政府は、ドル安・人民元高によって保有しているアメリカ国債などの価値が下がったので、アメリカ政府に不満を述べたようですが、アメリカ政府は逆に「中国は人民元と外国通貨の交換を政府が管理して、市場で決まる交換比率より人民元を安めにしている」という不満を持っていました。アメリカ政府がこの問題について明確に何かを実行したというニュースはないので、多分何もしなかったでしょう。中国がアメリカ国債を買わずに何か代わりのものを買おうとすると、あまりにも巨額なのでそれがすぐ値上がりしてしまい、中国はちっとも得ができません。ですから中国はアメリカ国債を以前ほどには買わなくなりましたが、それでも相当な額を買い続けています。

  • 円相場や日本株相場はこれからどうなるのか

 日本株を買おうとする外国人は、特に日本を愛しているわけではありません。得だと思えば買うし、もっと得をするチャンスができれば日本円も日本株も撃って乗り換えます。だから「円相場や日本株相場はこれからどうなるのか」は、「もっと有利な投資先が生まれるか」に左右されます。というより、ふたつは同じ問題だと言ってもいいくらいです。

 2011年から2012年にかけての日本円があれほど強かったのは、ユーロ圏が壊滅的な経済混乱に陥るリスクが強く意識され、日本円が安全だと思われたことが最初の理由です。ところがそれによって日本円が「値上がり」したため、株などを買うより日本円そのものを持って値上がりを待つと、かなりの確率で得をすることができたので、ますます円が買われてしまったのです。

 2012年末から、日本政府要人の円安誘導発言は面白いように大きく相場を動かしました。これは上の話とは逆に、アメリカ企業の業績回復(=景気回復)とヨーロッパ経済の小康、また日本の経常赤字継続とヨーロッパの経常赤字縮小を受けて、アメリカ株式市場など有望な資金の動き先が現れ、円が「値下がり」しそうだという予想が生まれ、その流れに乗れば儲かるという思惑を多くの人々が持ったからでしょう。

 円安のマイナス面(輸入物価の上昇がもたらす様々な影響)が輸出の好調を打ち消すほど円安が進んだり、イタリア政局の成り行きなどでヨーロッパの経済状況が再び悪化する予想が広がったりすれば、再びリスク回避のために円が買われる(そして株式市場には投入しないで預金でじっと持たれる)日が来るかもしれません。日本企業の業績好転が予想されたほどでなかった場合も日本株は売られるでしょうし、下手をすると円も日本株も同時に下がるかもしれません。

 そして、もし円安によって日本の輸出が急伸することになれば、雇用を確保して国民の不満をなだめたい日本以外全部の国の政府は、日本政府に対して円安の流れを止める何らかの政策を取るよう要求してくるでしょう。こうなると政治問題ですから、何が要求され、何が実行されるのかは経済学の枠の外で決まるとしか言えません。

投機と実需

  • 貿易と投機

 例えば外貨に例を取ると、輸出入のためには外貨と円の交換が必要になります。こうした、金融市場の外にある市場での取引のために必要とされる外貨(と円)の需要を実需と言います。ある取引が実需かどうかは、交換した通貨と額のデータだけがあっても判断できないので、実需以外の外貨交換を区別して取り扱うことは困難です。

  • 投機の規制と取引自由の原則

 何らかの誤認を誘う取引は、金融商品取引法や証券取引法に基づいて不正行為として摘発できます。しかし「本気の投機」は多くの場合防ぐことができません。例えば売り手役と買い手役が共謀して高値や安値の取引を成立させることは、他の市場参加者に相場を誤認させるので違法です。しかし巨大な資金を投じ、リスクを負担して買い進み(売り浴びせ)、相場を動かすことは違法ではありません。巨額の資金が動いていることは少しずつわかってくるので、ひとつひとつの取引を後から否定することは契約自由の原則を崩してしまいます。

金融商品取引法により禁止されている取引(日興コーディアル証券)

  • 実名公表によるけん制

 ニューヨーク商品取引所で原油先物価格が最高記録を出した2008年7月、スイスの石油製品商社Vitolが一時期、原油先物取引高の10%を超えていたことを、先物市場を監督する機関CFTCがつかみました。CFTCにできることは、Vitolを実需筋から投機筋に分類変更して、いくらか取引高の上限をかけることだけでした。

 ところがこの話はメディアに漏れ(最初につかんだのはWallstreet JournalとWashington Postだったようです)、2008年8月に世界中に報道されました。相場の仕掛け人として注目を浴びることは、ある程度取引をやりにくくしたかもしれません。

この問題を伝聞として報じた、共同通信社によるニュース。サイト「47ニュース」は地方新聞社と共同通信社の共同運営


  • リスクオン、リスクオフ

 銀行預金は銀行の経営が悪化しない限り、預けたお金が戻ってこないこと(元本割れ)は起きません。一方で、株のように毎日値段が上がったり下がったりしている金融商品は、不景気でも損をするとは限りませんし、景気が良くても得をするとは限りません。

 株のようにリスクの高い金融商品(リスク商品)は、政治の混乱などで「先行き何が起こるか予想しにくい」状況になると売られ、もっと価値が下がりにくそうなもの(安全資産)が買われることがあります。こういうファンドや個人の行動をリスクオフと言います。逆に、経済が安定してビジネスが順調に伸びそうだと、安全資産が売られ、リスク資産が買われます。これをリスクオンと言います。こうした流れが変わるたびに、金融資産の価格や利回りは大きく変化します。

 すでに述べたように2008年以降の円高は、リーマンショックで深い傷を負ったアメリカとEUから、日本国債や円建ての預金が安全資産とみなされて資金が流入したことが大きな原因です。リスクを避けたいというのが動機ですから、日本株はあまり買ってもらえなかったのです。

  • 「短期マネー」の危険

 これもすでに述べたように、ファンドと言っても大きなリスクを取ってせかせかと資金を動かすものと、市場の流れを見極めてゆっくり動くものがあります。前者の「短期マネー」で国内の資産価格がつりあがっている場合、それらが別のもっと有利な市場へ一斉に動いたり、あるいは世界のどこかで大損失を被ったために、赤字を穴埋めすべく国内資産を一斉に投げ売りされたら、資産価格は暴落してしまいます。だからといって、短気マネーだけを見分けて別の規制をかけることは、実際にはなかなか困難です。

インフレとインフレターゲット

  • 先生、消費税率アップはインフレに入りますか

 入りません。ここでは税抜き価格の話をしていると思ってください。

  • インフレとはどういうことか

 インフレにはコスト=プッシュインフレとデマンド=プルインフレがあるとよく言われます。例えば原油価格が上がったとき、ガソリンなどの石油製品や、それらを使って作るプラスチックなどが値上がりし、さらにそれらを使って生産する製品に波及していきます。これがコスト=プッシュインフレの典型的な姿です。円安はあらゆる輸入品の価格を引き上げますから、広範なコスト=プッシュインフレを起こすと考えられます。

 デマンド=プルインフレは、好況で需要が供給能力を超え、入手を競い合って価格が高騰するものです。もちろんこんなことが日本で近い将来実現するとは思えませんし、もし実現したら過熱した景気を抑え込むべき段階かもしれません。ただ日本経済が急速に成長していた時期には、特定の建材が足りないからビル工事が遅れるとか、特定の部品が間に合わないから生産ラインが止まるとか、小さなボトルネックがあちこちにできて、それが結局ゆるやかな価格上昇につながったことは多かっただろうと思います。

 賃金=物価スパイラルという現象もインフレにはつきものです。物価が上がると労働者の生活が苦しくなり、賃上げ圧力がかかります。ところが実際に賃上げが実現するとそれが価格に転嫁され、また物価を押し上げてしまうのです。スパイラルとはこのふたつの関係を「らせん」に例えた表現です。所得向上が物価上昇より速ければ生活は豊かになりますし、逆ならだんだん生活が苦しくなっていきます。

  • なぜインフレのほうがデフレよりいいのか

 賃金も物価も10%上昇するのだったら、自動販売機屋さんに新しい仕事ができるくらいの意味しかないように聞こえますね。「デフレ脱却」はなぜ重要なのでしょうか。

 お金を借りる(貸す)契約は、たいていインフレに対応していません。例えば物価も収入も2倍になるということは、1円の値打ちが半分になるということ。100万円を借りていた人は、返す負担が昔の50万円くらいに軽くなるということです。「インフレの世界」は「お金を借りていると得をする世界」と言ってもいいでしょう。

 住宅ローンを背負ったり、企業資金を借りたりした人たちは、インフレの世界では前向きの経済活動に負担軽減のご褒美を受けることができます。逆にデフレの世界では、「お金を持っていたら得、チャレンジしたら重い負担」ということになるのです。

 もちろん一番得をするのは、巨大な借金を抱えた日本政府です。インフレの時期に政府の債務負担が小さく済むことを「インフレ税を徴収する」と表現することがあります。日本政府の借金が減れば、昔の借金を返すよりも、前向きの用途に税金を使うこともできます。


  • 物価上昇率計測に潜む問題点

 物価を調査すると言っても、実際に人が買うものはバラバラです。調査すると言っても、どうすればいいのでしょう。

 例えば「消費者物価」は、「家計調査」という別の調査とリンクしています。全国で数千の家計を選び、細かい家計簿をつけてもらいます。日本の家庭が何にどれくらいお金を使っているかがこの調査で分かるので、そのそれぞれの価格がどれだけ上がったか下がったかを家計調査とは別に調査して、消費者物価指数を出すのです。消費者物価指数の他に、企業が事業のために買い入れるものの価格をはかる企業物価指数や、日本全体でGDPの構成要素が平均どれだけ値上がりしたかを見るCDPデフレーターなどがあります。

 しかし例えばレトルトカレーといっても、1000円を超える高級なものから4袋398円の包装までケチったものまでピンキリです。それを「代表的な銘柄」を選ぶことで処理しています。例えば「レトルトカレー」の代表として「ボンカレーゴールド辛口」を選んだとしたら(これは実際に選ばれているものではありません)、それが全国で実際にいくらで売られているかが調査され、記録されるわけです。

 この方法の問題は、その銘柄が物価上昇期には別の新製品と入れ替えに販売中止になりやすいことです。例えば「〇〇」を販売中止にして、よく似た中身の「〇〇セレクト」を高い値段で新発売すれば、消費者に対する値上げの悪印象を薄められるというわけです。こうした場合、その商品はしばらく調査対象から外し、また新しい銘柄で調査を再開することになりますが、値上げの影響は指数に現れないままです。だから消費者物価指数はインフレを低めに計算してしまうという批判があります。

2008年9月危機はなぜ起こったか

  • 証券化とリスク分散

 値上がりするか値下がりするか分からない資産が何種類かあるとします。それぞれの所有権を100等分して、100人の人に少しずつ持ってもらえば、個々の資産が価格変動しても、損も得もひとりひとりには1/100でしかありません。

 個々には値下がりしても、平均すれば収益が上がっているときは、100人でその収益を分け合うことが出来ます。

 所有権を100等分するときに、1/100の持ち主(または受益権者)であることを証明する書類を発行し、その書類が示す権利を自由に売買してよいと約束するのが「証券化」です。

 貸し倒れリスクの高い不動産担保貸付からの受益権を証券化して、リスクを分散したつもりが、アメリカ全土の不動産価格停滞で一斉に貸し倒れが生じてしまったことが、サブプライム危機の発端でした。2006年に不動産価格の伸びが鈍化を始め(決して、大きく下がったわけではありません。上昇予想が実現しなくなっただけで決定的でした)、2007年になると大手不動産金融企業の倒産が起こり始めました。

  • 原油・穀物バブル

 不動産証券や、この変調を見て値上がりの止まった株式市場から逃げ出した資金の一部は、原油市場・小麦市場・トウモロコシ市場などに流れ込み、暴騰を引き起こしたと言われていますが、もちろん資金の移動を証拠立てることは困難です。これらの市場で暴騰が起こったことだけは事実で、小麦粉やガソリンの価格上昇を読者の皆さんも何らかの形で体感したと思います。

 経済学でバブルと呼ばれるのは、「自己実現的な期待」です。値上がりが予想されるあいだ、それを保持したほうが儲かるので買い手がつき、買い手がつく間は実際に上昇し、予想が実現するのです。それが実需(実際にその価格で小麦を消費したいという欲求)であるかどうかは問題ではありません。誰かが買うなら値上がりする。値上がりするなら誰かが買う。それだけです。

 ニューヨーク原油先物は、2008年7月には2006年末の2倍半に近い価格をつけ、以後下落に転じました。反転のタイミングを何が決めたのか、はっきりとはわかりません。2008年7月にアメリカ証券委員会(SEC)が、下落不安のあった金融株を対象に、空売り(株を持っていないのに一定価格で将来売る約束だけすること。その価格を下回って下落したときは、その値段で買ってすぐ渡せば差額を手に入れられる)を一時的に規制しました。そのことが直接間接に影響したとも言われます。

 一般には、バブルを止める根本的な要因は、価格の高さです。これ以上上がるという予想が誰にも持てないほど高くなれば、バブルは止まり、崩壊します。このころの価格は、もうそうした水準だったのかもしれません。

  • 誰も総額がわからない

 国際的に資金移動を行うファンドは、しばしば世界各地のタックスヘイヴンに名義上の本拠地を持っており、細分化したファンドをファンドオブファンドとして少しずつ所有しています。これはリスク分散としては正統的な投資態度ですが、「誰がいくら損したのかわからない」という副作用があります。倒産可能性をめぐって、ファンドや金融機関が互いに疑心暗鬼に陥ると、それをくつがえす根拠は誰にも提供できません。ひとつの規制当局が全体を監督している国内市場と、これは根本的に異なる点です。

  • 世界的な貯蓄と投資のアンバランス

 貯蓄が投資を上回る国は、差額を外国に投資する余裕があります。アメリカ国債や政府機関債の相当部分は外国資金が買っており、平成20年度 年次経済財政報告書によるとアメリカの対外「純債務残高は約300兆円に達している」(p.24)状態です。

平成20年度 年次経済財政報告書 第1章第2節 特に第1-2-2図

 近年、主に中国・中東の貯蓄余剰がアメリカに注ぎ込まれていました。この間、アメリカ政府はイラク問題で巨額の予算を費やしており、もちろんアメリカ自身はその経済的利益を受け取ることはできませんでした。不動産バブルもはじけてしまうと、アメリカに集まった資金は、利子を稼げる運用先を失ってしまいました。この根本的な無理が2007年~2008年の危機に現れた、ともいえます。

 中東での貯蓄急増は近年の原油高と運用益によるとして、なぜ中国では貯蓄が積み上がるのでしょうか。

 中国の家計貯蓄率を国家レベルで調査した数字は存在しないようです。いくつかの部分的な調査結果によると、家計貯蓄率は平均で20~30%で、日本であれば貯蓄率が下がってくる高齢になっても下がらないのが特徴です。老後や医療の社会保障が充実していないためだといわれます。この数字は日本よりはるかに高いものですが、GDP統計でみると国全体の貯蓄率はもっと高くなっています。そうだとすれば、差額は企業の貯蓄だと考えるのが自然です。国内の企業金融市場が不安定で信用されていないことから、利益を上げた企業が内部留保を積んでいると考えられます。

反グローバリゼーション、保護貿易、ブロック経済

  • 反グローバリゼーション

 グローバリゼーションによって全体として新たな利益機会が生まれているとしても、個人や地域レベルでは、大きな損得の差が生じます。労働集約的な工業や農業を主要産業としてきた地方は、輸入品による所得面の打撃を安い輸入品消費の恩恵が下回り、グローバリゼーションによって損をします。

 グローバリゼーションに反発する政治運動を反グローバリゼーションと総称しますが、その内容は様々です。失われた国産品の市場を取り戻そうとする排外的な主張、伝統的な生活様式への回帰、輸出のための自然破壊に反対する立場などが内容として挙げられます。

 フェアトレードの項で触れたように、こうした主張は経済格差の固定化につながります。そしてたぶん、グローバリゼーションには反対でも、石油などのエネルギーだけは手に入れたい人が多いでしょう。少なくとも、グローバリゼーションに反対したら近隣の救急車が走れなくなった、という状態を我慢できる人は少ないでしょう。生活の全てを一度に見通すことは、誰にとっても難しいことです。

  • 保護貿易

 自由貿易(グローバリゼーションはその結果)を求める主張は、提案されたが実現しなかったITOにさかのぼれば、昭和初期の保護貿易志向が植民地の少ない日本やドイツを追い詰め、戦争につながったことへの反省に立っています。

 グローバリゼーションによって、今まで成り立ってきた生き方や企業のありかたが、持続可能でなくなることもあるでしょう。しかし他国が経済的に繁栄するチャンスを互いにつぶしあえば、昭和初期に逆戻りです。

 世界はろくなものではないし、ろくでもない部分がグローバリゼーションによって新たに持ち込まれてきます。しかし市場はそこにあります。皆さんがそれに目をつぶっても、皆さん以外の零細多数な人々と国々が勝手に取引を始め、皆さんを相対的にじわじわと貧乏にしていきます。それならば、市場メカニズムを信奉しない人々も、少なくともそれを理解すべきです。根絶の見込みのない恐るべき社会の病として。皆さんをつけねらうケダモノの群れとして。

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