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 基本科目・経済学(仮称) マクロ経済学編(3回)講義ノート

ストックとフロー

言葉は通じてこそ意味がある

 これから、経済学で使う、いくつかの基本用語に関する説明をします。

 例えば中国語で「手紙」はトイレットペーパー、「汽車」は自動車のことです。誰かがあなたに英語で「私が手を洗えるところはありませんか」と尋ねてきたら、その人はトイレの場所を尋ねているのです。

 言葉は通じてこそ意味があります。同じ言葉を使っていても、相手は別の意味でそれを使っているかもしれません。基本的な言葉であるほど、その使われ方を正しく知っておかないと、会話が通じません。

 皆さんのほとんどは、大学を出るとそれ以上学校に通わずに、社会で暮らしていきます。学校の先生は、学生の言いたいことを理解してあげるのも仕事です。しかし皆さんが学校を出たら、皆さんの言うことなど面倒がって聞こうともしない人たちの中で、皆さんは暮らしてゆくのです。皆さん自身が、自分の言いたいことを心の中でまとめて、うまく伝えなければ、皆さんは周囲から怒られたり、無視されたり、負担を押し付けられたりします。言葉のうまく使えない人を狙う悪人は、たくさんいるのです。

 自分の言いたいことを整理し、伝える練習を、まだ始めていないとしたら、この瞬間から始めて下さい。言葉は人生の武器であり、皆さんの心臓を守る楯です。

収入、支出

 皆さんは家計簿や小遣い帳をつけていますか? 受け取ったお金が収入、支払ったお金が支出ですね。これらの言葉は、さいわい、経済学でも日常生活でも意味は同じです。

 例えば1ヶ月、家計簿や小遣い帳をつけたとします。その期間の収入、支出を合計すると、その月の収入や支出になりますね。今月の皆さんの収入、支出はそれぞれどのくらいになる予定ですか? ちょっと思い浮かべてみてください。

 本当にお金がない日、というのはあるものです。財布に10円玉が1枚しかなくて、外にも出られない、などということもあるかもしれません。しかしまあ、そんなことはめったにないですよね。今月の初め、あなたの財布にはいくら入っていましたか? 預金通帳からすぐに引き出せるお金はいくらありましたか?

 今月の初めに自分が持っていたお金をパッと言える人はほとんどいません。どこからどこまでが自分のお金で、父母のお金と区別できるのでしょう。商品券のようにお金のようでお金でないものはどうしましょう。引き落としの済んでいないクレジットカード残高のような「マイナスのお金」もあります。考え出すと結構難しそうですよね。ここではそれを保留します。順々に考えていくことにしましょう。講義で扱いきれなかった分は、皆さんが考え、調べてください。

期間、フロー、ストック

 1ヶ月とか1年とか、ある期間を区切って、人や企業の収入・支出を計算すると、その人や企業の経済状態について多くのことが分かります。それはもちろん、経済状態のすべてではありませんが、何を考えるにも基礎となるものです。こうした期間計算で出した数字のことをフロー(の数字)と言います。期間内の収入(合計)や支出(合計)は代表的なフローの数字です。

 その期間が始まる前に何をどれだけ持っていたか、お金に直したものは、普通の日本語で言うと、その人・企業が持っている資産ですよね。ある瞬間に持っているものを表す数字をストックといいます。資産は代表的なストックです。実際には、お金に換算しにくい持ち物をどこまで資産に含めるか、難しい問題で、ある場合の資産の数え方が法律で決まっている場合もあります。例えば家などを持っている人は、市町村に固定資産税を払わなければなりませんが、そのための資産額を計算する方法は細かく決まっていて、企業が株主に資産額を報告するときの方法とは違っています。

家計、企業、政府

 家庭ではたいてい、誰かが働いて賃金や給料をもらって、生活に必要な財(値段がついていて形のあるもの)やサービス(値段がついていて形のないもの)を買います。家庭と言っても単身者、老齢者、大金持ちなどなどいろいろです。大金持ちは給料などもらわずに、配当や利子で生活しているかもしれません。マクロ経済学ではこれらの事情をすべて無視して、生活し消費する場をイメージし、それに家計と名づけます。

 生産活動をする組織は、株式会社や有限会社として法律上の設立手続きを取ったものも、個人で勝手に人を雇って、特には本当にひとりだけで頑張っているものもありますが、マクロ経済学ではこれらを全部まとめて企業と呼びます。

 新聞を見ていると、都道府県庁と日本政府が税金の分け方などをめぐってけんかしている記事がしょっちゅう出ます。日本政府の省どうしも自分の予算を増やそうと独自に頑張っています。そういうことを言い出すときりがないのですが、これもまとめて政府と呼んでしまいます。

 これらのどれにも属さないが、経済活動の中で無視できないものもあります。例えば病院や学校です。これらは企業と違って、赤字を出せばやはりつぶれるのですが、利潤を求めて運営してはいないことになっています。これらを非営利法人というのですが、初級のマクロ経済学ではよくこうした存在を無視します。

 以上のように、家計、企業、政府の3部門で経済全体が出来ている、というのが、マクロ経済学の最初によく出てくる説明です。部門(セクター)と言う表現をしますが、それぞれの部門にはたくさんの(互いに共通の特徴を持った)家計や企業や政府がいて、自分の得になるように、あるいは自分の目的を果たすように、自分に決められることを決めています。例えば家計はどれだけ働くかを決めます。そして持っているお金を何にどれだけ使うか決めます。だから「経済は3種類の経済主体から成っている」と表現することもあります。「主体」とは「意思決定をする人や組織」のことです。

 例えば公務員はとにかく定年まで処罰を食らわず、無事に勤め上げることを目指して意思決定するかもしれません。政治家は次の選挙で国民の支持を得ることを目的とするかもしれません。ミクロ経済学で習う利潤最大化や効用最大化は、企業や家計が意思決定するときの典型的なルールです。

所得、消費、投資、貯蓄

 所得は「経済学」のマクロ経済学で理解してもらう基本的な言葉の中でも、一番基本的な言葉ですが、経済学で言う「所得」は厳密に定義されています。それはもう少し後で説明したほうがいいでしょう。ここでは大雑把に、「所得=収入」と理解してください。特に理解して欲しいのは、所得はフローの数字だということです。資産額と所得額をごっちゃにしないよう気をつけてください。

 人の所得とは収入のことです。では企業の所得は? 初歩のマクロ経済学では「企業の得た収入は、みんなどこかの家計のもの」と教えます。収入の中から賃金・給料を払えば、それはその企業で働いた家計のもの。配当したり、企業内の使い残し(内部留保)が出れば、それは株を持っている家計のもの。もちろん経営者に役員給与が出れば、それは経営者の家計に入ります。他の企業から買ったものは、他の企業の売り上げとなって、株主、経営者、従業員などの家計に分けられるはず。だから、家計収入だけを見ていれば、二重計算や計算漏れを防げます。

 政府も同じことです。その年に家計が稼いで税金を納めた分(企業が納める税もありますが、これは家計の代わりに企業がやったことにします)で、その年の政府の活動が出来るんですよね。租税とは別に、政府は国債を発行して家計と企業からお金を借りていますが、政府がマイナスの貯蓄をし、家計と企業が同じだけプラスの貯蓄をしていることになります。

 これから説明するのは、フロー概念で言葉を統一したときに成り立つ、重要な恒等式です。高校数学でちょっとだけ習った恒等式という言葉を覚えていますか? 「常に成り立つ、アタリマエとみなしていい関係式」のことです。とりあえず、式だけ先に示しましょう。

所得=消費+貯蓄

所得=消費+投資

ゆえに 貯蓄=投資

 全然アタリマエに見えませんね。消費って物を買うこと? 貯蓄って貯金のこと? 投資って株を買うこと? 普通に生活していると、使わない言葉です。では説明しますよ。

 さっき説明したように、その年に社会全体で稼いだ収入は、ばらばらのタイミングで家計を通ったとしても、みんな一度は家計のものになったはずです。その年に社会全体で稼いだ収入は、家計の家計簿が超人的にちゃんと管理されていれば、家計簿の収入のところに全部並んでいるはずです。

 さて。家計はその所得をどうしたでしょう。ここで恒等式をひとつ書きます。

所得=使った所得+使わなかった所得

 こう表現するとアタリマエに見えるでしょう。所得は使ったか使わなかったか、どっちかのはずです。じつは「所得=消費+貯蓄」というのは、そういうことなのです。

 食費やケータイ料金のように、いかにも「使いました、なくなりました」という気がする消費もありますが、自動車やパソコンや家電製品は何年か使うのが普通ですね。これも「耐久消費財」と呼んで、消費の中に含めてしまいます。

「貯蓄=使わなかった所得」だとすると、それは実際にはどこにあるのでしょう。銀行などの預金残高が増えるのは、いちばん普通の貯蓄です。財布の中や、家の中のどこかにある現金は、その年の最初と最後では増えたり減ったりしているでしょう。たぶん。誰もきちんと勘定しませんけどね。

 使わなかったお金を、預金残高で持つこともできますし、現金でも、株式でもかまいません。銀行に預けたお金は、銀行が企業や政府、時には家計に貸して、使わせているはずです。だから企業に出資する株式を家計が直接買うのも、貯蓄に数えます。それが今年の所得からの分ならば、ですが。

 借金はマイナスの貯蓄です。借金を今年返した額は、今年の貯蓄額に含めます。

 さて、家計は所得を使ったり、使わなかったりしました。政府のことはいったん棚に上げて、企業の立場に立って想像してみましょう。家計が所得を使えば、企業はその代金を受け取ります。

 企業は家計にも生産物を売りますが、他の企業にも売ります。それが消費財をつくるための材料費など(中間生産物)であれば、家計が買った消費財の価格にそれが入っているはずです。さっきの等式に出てきた「(家計が)使わなかった所得」にあたるものが「投資」のはずなのですが、「投資」とは何でしょう。

「投資」とは、「ストックを増やすこと」なのです。

 代表的なのは「設備投資」です。企業がしばらく使っていく生産設備は、企業が自分でお金を払わなければなりません。それは、いろいろな出所があるはずです。

  • 今年、企業が上げた利潤  マクロ経済学では、これは株主(の家計)のものだと考えます。だから家計の所得だが、投資した分は家計が貯蓄した(使わなかった)と考えます。
  • 企業自身が今までに貯めたお金(内部留保)  これは、今年稼いだお金ではありません。だからフローではないのです。
  • 家計が銀行に預金して、銀行から企業が借りたお金
  • 銀行を通さずに、家計に社債を買ってもらって、企業が家計から借りたお金

「家計が使わなかった分の所得」と、「設備投資の資金」は対応する部分が多いのですが、内部留保のように、「フローでないもの」が混じっていることになります。「マクロ経済学で言う設備投資額と、企業が設備投資だと思っている額の合計は違うんじゃないか」という疑問がわきますね。これは重要な点なので、あとで解説します。

 最近は、必要なときに必要なだけ生産設備を使うのが上手な経営だ、という考え方が常識になっています。だからオフィスビルを建てるのは(それを貸すつもりの)不動産業者、建設機械や旅客機を持つのはリース業者、といった具合に、生産設備を使っている企業と設備投資をした企業が一致しにくくなっています。

「無形固定資産」を増やす活動も投資です。代表的なのは、ソフトウェア開発です。研究開発も国の財産を増やしているに違いないのですが、いくら増やしているのか計算しにくいので、今後の課題になっています。

 家計も住宅投資という重要な投資をしています。フローの数字だけを取り出す観点から、土地への支払いは住宅投資に含まれない、と理解してください。住宅を買うという巨大な投資をするためには、家計は巨大な貯蓄をしなければなりませんが、その家計自身はたいてい住宅ローンという巨大なマイナスの貯蓄を背負い、銀行を通じて他の家計の貯蓄分で埋め合わせます。

 さて、そういえば政府という部門もあったことを思い出しましょう。政府は家計や企業から租税を吸い上げて、いろんなことをします。

  • 自分で国民の代わりに消費をする(警察サービスの提供など)
  • 道路などの社会資本に投資する
  • 家計から家計へ所得を移転する(生活保護、年金への国庫補助など)

 今までの説明をまとめると、「所得=消費+投資」という式は

所得=家計が今年の暮らしに使ったお金+将来のために生産能力や暮らしやすさを上げるストック増加に使ったお金

 ということになりそうですが、何かまだ忘れているものがありそうですね。どう考えても所得の中には、「誰も何も買っていない」分があるのです。財布の中や家の中に残っているお金も貯蓄に数える、と説明しましたよね。自分でもいくら残っているかわからないお金で、誰も買い物ができるわけがありません。

 しかし企業は、家計に賃金・給料を払うだけの生産活動はしたはずです。

 と、いうことは…

 売れ残っているに違いない!!

 そうなのです。企業の売れ残り(在庫増加)に「在庫投資」という名前をつけて、投資の一部とみなさないと、「所得=消費+投資」は成り立たないのです。だから、

所得=家計が今年の暮らしに使ったお金+将来のために生産能力や暮らしやすさを上げるストック増加に使ったお金+売れ残り

 ということですね。

国内総生産と国民所得

付加価値と三面等価の法則

 ここまでの説明では、「所得は家計を一度は通る」というアイデアで、所得の流れをイメージしてもらいました。家計は賃金・給料、利子・(株式の)配当、地代など、いろいろな種類の収入を得ますが、その合計が今まで説明した所得であるはずです。

所得=賃金・給料+利子・配当+地代…   (分配面での所得)

 また、「誰かが生産したものの合計」を取っても、所得になるはずです。ただしここでは、他の企業が生産したものを材料やレンタル設備として使った場合、その額を差し引いて、付加価値だけを集計します。

所得=A社の生産した付加価値+B社の生産した付加価値+C社の… (生産面での所得)

 以前に「所得=消費+投資」という等式が出てきましたが、これは所得の使い道を合計した式、とも言えます。

所得=家計消費+政府消費+設備投資+住宅投資…   (支出面での所得)

 この3つの数え方のどれを使っても、所得を計算できるし、計算結果は一致するはずです。これを三面等価の法則(三面等価の原則)といいます。実際には後で述べる理由で、この3つが一致することを確認できる数字は発表されていません。

国民と国内

 国全体の所得を計算する方法には何種類もあります。どうして何種類もあるのでしょうか。  日本経済の状態を知るためには、大きく分けてふたつの考え方があります。

  • (1)世界のどこにいようと、日本人と日本企業の生産・所得を集計する
  • (2)日本に住んでいる外国人、日本で活動している企業などを計算に入れ、逆に海外で働く日本人・日本企業は除く

 (1)の考え方で集計したものが国民総生産(GNP)、(2)が国内総生産(GDP)です。昔はGNPが発表されていたのですが、現在では人や企業の行き来が激しくなったので、GDPが発表されるようになりました。しかし分配面については国内所得ではなく、国民所得、あるいはそれに少し修正を加えた国民可処分所得で所得を測り、それが誰の手に渡ったかが計算されています。だから三面等価の法則は理屈では正しくても、実際に発表されている国民経済計算では、国内総生産と国内総支出は一致しても、分配面でこれと一致する数字はありません。

 早く知りたいときは国民所得より国内総生産、という使い分けが必要なのも、統計が何通りもある理由です。例えば平成18年5月になって、平成16年度の国民所得がやっと発表されました。国内総生産はこれよりずっと早くて、例えば平成18年12月8日には、平成18年7月〜9月分の国内総生産が速報値として発表されています。国民所得を計算するには租税のデータなど集計の遅いものが必要なので、実態を知るのが遅くなってしまうのです。

国内総生産、国民所得、国民可処分所得

 以上のように、「国内」「国民」は海外の日本人、国内の外国人を計算に入れるかどうかの違いです。国内総生産と国民所得の違いを説明するには、国内総生産と国内所得の違いを説明したほうがわかりやすいでしょう。

 ある期間の国内生産額を足し合わせたものが国内総生産です。ただし、すべての企業の生産額または売上額を集計したものから、中間生産物(他の企業から買った財やサービス)を差し引いて、付加価値だけを集計しなければなりません。実際の計算ではもちろん、かなりの推定が混じっています。

国内所得=国内総生産−固定資産減耗(会計で減価償却費と呼ばれるものとほとんど同じで、その期間に古くなったり痛んだりしたストックの減価額)−間接税+補助金

国内可処分所得=国内所得−直接税−社会負担(社会保険料など)+社会給付(年金など)+海外からの移転所得

調整国内可処分所得=国内可処分所得+現物給付(社会給付や、政府による住民へのサービスで、施設利用などお金を渡さない形のもの)

 下に行くほど、「家計と企業が受け取った所得」に近づくよう、あれこれと工夫されています。

「国内」を「国民」に変えるには、日本人・日本企業の海外からの送金を足し、外国人・外国企業の海外への送金を引くのですが、内閣府は最近のGNPデータを発表していません。2000年度までのデータは発表されていますが、それによると2000年度のGNPは497兆円、GDPは490兆円ですから、1.4%くらい差があったことになります。

事後的な把握、事前の意図

 三面等価の法則などは特にそうですが、国民所得計算に出てくる等式は「すべてが終わった後、こういう関係が成立していなければおかしい」というものばかりです。マクロ経済学では、こうした等式が事後的に成り立つ関係である、と表現します。その期間が始まる前、家計や企業が計画し、予想していた結果と、それは当然違うでしょう。フローを計算する期間が始まる前に持っていた予想や計画は事前的なものだ、と表現します。

 生産額などの事後的な数字は「いまさら言っても仕方がない結果」ですが、次の事前的な意思決定の役に立ちます。

ポートフォリオとストックの増減

ポートフォリオ

 もちろん住宅投資は投資です。ただ、投資なのは住宅だけです。大都市圏では宅地のほうがたいてい住宅そのものより高いのですが、土地は生産されるものではないので、土地を買うのに使った分は投資ではありません。ということは、マクロ経済学で言う「所得」に含めてもいけないのです。

 ある日の日本経済を想像してください。それそれの家計は色々なストックを持っています。土地。すでに建っている住宅。現金。株券。預金。その日に借金しないでポンと土地を買った人は、現金や預金のストックが減って、同じ額の土地がストックに増えました。ストックの構成が変わっただけなのです。では住宅ローンで買ったら? 土地の価格と同じだけ、借金というマイナスのストックができたので、その瞬間にはストックは増えても減ってもいません。順調にフローの所得からローンを返せば、だんだんストックが増え、土地が自分のものになって行きます。

 ストックの構成(資産構成)のことを、ポートフォリオといいます。ポートフォリオとはもともと薄いカバンのことで、これが転じて、保有する有価証券(株式、債券など)の一覧表を指すようになりました。

 実際の取引では、ストックの移転とフローの消費・投資が入り混じって行なわれることが多いのです。例えば株券を売買するには証券会社に手数料を払う必要がありますが、この手数料は今日の金融サービスに対する対価で、フローの所得です。ストックとフローを区別できることはとても大切なのですが、それは結構難しいことです。

キャピタルゲイン、キャピタルロス

 ストックの中には、株式のように値動きの激しいものがあります。土地やマンションの値上がり・値下がりはサラリーマンの人生を一変させるほどの一大事です。ストックの値上がりによる利益をキャピタルゲイン、損失をキャピタルロスと総称します。

 キャピタルゲインやキャピタルロスは、もし客観的に額を把握できるなら、生産活動ではないとしても、フローとして扱ってもいいものでしょう。固定資本減耗をフローの所得から除くのは、一種のキャピタルロス処理です。日本の会計基準では企業の持つストックを評価する方法として、有価証券や販売用不動産の時価評価、さらに固定資産全体の減損会計(キャピタルロスが生じたときは、下がった価値に直す義務がある)を導入しました。その年度の営業では赤字を出していなくても、キャピタルロスが起きているとしたらトータルで赤字なこともあるので、株主などにすぐ知らせなければならない、という考え方です。詳しいことは会計関係の講義で聞いてください。

 キャピタルゲインが生じているなら、それを(税制上の)所得とみなして課税してもいいわけで、日本でも個人所有の株式についてはすでに実施されていますし、個人の土地売却益(買った価格との差額)には課税されます。

「所得」概念のあいまいさ

 いままでは「所得」という言葉をマクロ経済学、もっと限定して言えば国民経済計算での意味にだけ使ってきました。しかし「所得の多い人から高い率で税金を取る(累進課税)」ときの「所得」にキャピタルゲインが入っていないのはおかしいように思えますし、国内総生産にキャピタルゲインを入れるのも逆におかしいような気がします。経済学の中でさえ、場合によって同じ言葉が使い分けられているのが実態です。

 研究開発投資のように、理屈の上では研究成果を所得に数えたほうがいいのに、うまく測れないので数えられていないものもあります。

 じつは、こうした「さじ加減」で取り扱いを決めるしかない部分は、国民経済計算の中にはたくさんあります。借家の家賃はサービスの生産として数えられますが、家やマンションを持っている人は、自分で自分に同じサービスを提供しているわけです。ですから全国にある持ち家に自分で自分に家賃を払ったらいくらくらいが相場か推計して、生産額に加えています。自分で自分に払う仮想的な家賃を帰属家賃といいます。

国内総生産は本当に豊かさの指標になっているか?

 家事労働は国内総生産に数えられていません。例えば家事をしないでコンビニ弁当で食事を済ませると、弁当の分だけ国内総生産は上がります。

 通勤時間が長くなると、たいてい交通費が余計にかかります。通勤がキツくなるほど、国内総生産は上がってしまいます。

 しかし、人の幸せをみんなが納得する方法で測る手段がないので、それが幸せのすべてではないことを留保しつつ、国内総生産は使われ続けています。

マクロ経済学と合理的行動(第4回)

  • 第4回をどの担当者が行なうかは未定。従って、やるかどうか未定。

合成の誤謬と経済政策無効論

フィリップス曲線、オーカンの法則

合理的期待形成と動学的不整合性

Microfoundationと貨幣需要関数

グローバリゼーション-さらばマンデル、フレミング

参考文献・参考リンク


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Last-modified: 2008-12-11 (木) 22:19:26 (5608d)