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医療リスクマネジメントに関するノート

2007年1月ワークショップに参加しての雑感

 あとで調べてみると、医療安全管理者に関する情報発信は山ほどあります。これらでカバーできないところはどこか、というのがメーリングリストの存在意義を決めることになります。

 この制度の根本的な問題は、医療安全管理者を設置すれば保険点数50点プラス、とだけ定められていて、何をやってもやらなくても賞罰なし、になっている点です。

 これでは、院内の理解が乏しい場合、リスクマネジャーに指名されたナースは動けば動くだけ恨まれて損をします。

 つまり、この制度では、本当に動かすべきプレイヤーは医師なのです。病院幹部をはじめとする医師をリスクマネジャーがどうやって動かすかが制度のカギなのです。なぜリスクマネジャーが「看護師、薬剤師など」となっていて医師を当てないことになっているのか、制度設計者の作為を想像すると興味深いものがあります。制度設計者は、院内でナースや薬剤師が医師に向かって声を上げるようけしかけ、院内での協議を促進することを狙っているのかもしれません。矢面に立った個々のナースには迷惑な話ですが、それはともかく。

 以下、院長を初めとする医師グループがリスクマネジャーの提言に耳を傾けるか、人手・予算・機材を割り当てるか、リスクマネジャーが会議をやってくれと言ったら会議をやってくれるか、などなどを漠然と指して「動く経営陣」「動かない経営陣」という表現を使うことにします。

 メーリングリストには、「動く経営陣」と組んだリスクマネジャーと、「動かない経営陣」と組んだリスクマネジャーが混在しています。前者はアクセス方法や、プライバシー保護上の配慮に「慣れ」れば、そのうち一定比率の人たちは活発な参加者となるでしょう。文章を書くことへの慣れ・性格など、ナースとしての力量とはあまり関係のない個性によって、活発な人と不活発な人が出てくるのは仕方の無いことです。

 問題を見つけること自体、かなり力量差のある「能力」です。もちろん日本全体として、この能力を引き上げる訓練計画を立てることには意味があるでしょうが、少なくともその訓練はメール交換でやるものではないでしょう。どうやって問題を見つける(見つけた)か、インシデントレポートから何をどう見抜くかというノウハウ自体をメーリングリストの外で検討し、印刷物・PDFなどの形で配信できれば、メーリングリストに報告される事例は増えるでしょう。

 もちろん、勇気を持って声をあげること、プライバシーや医療機関の名誉に配慮して、アドバイスを受けるのに必要なだけの真実を「ぼかして」伝えることも「能力」であり、誰もが同じように出来るわけではありません。

 さて、問題は後者、「動かない経営陣」と組んだ人たちです。そうしたリスクマネジャーにとって喫緊の問題は、「経営陣を動かすこと」です。現場のあれをどうこうすること、ではなくて。残念ながら。

 安全管理が病院のマイナスを防ぐだけではなく、プラスを生むことを実証すれば、いくらかの経営陣は動くようになるでしょう。いくらか、ですが。残念ながら、どんな業界にも、輝かしい22世紀まであの人は変わらないだろうな、と思える人たちはいます。それはどうすることもできません。自分に出来ることをするしかありません。

 安全管理の改善がプラスのアピールになる、という考え方を持った、成果集を発信することを、ぜひ検討すべきだと思います。もちろん、すべての有害事例をとりあげることはできません。問題によっては、「特定の方法でチェックを済ませないと、それが悪いサインになる」ような、客観的でいくらか役に立つ点検方法を工夫できるかもしれません。「動く経営陣」が増えれば、役に立つ情報を求める参加者も、うちの改善例を取り上げろと売り込んでくる参加者も増えるでしょう。

経済心理学と限定された合理性

プロジェクトマネジメント

プロジェクトマネージャ資格とPMBOK

プロジェクトマネージャという職種があります。他社や他部門を巻き込んだチームで、一方的な命令権はもらえないのに「責任者」としてチームを運営させられ、特定の目標を達成しなければいけない状況は、ビジネスではよくあります。この「責任者」がプロジェクトマネージャです。典型的なプロジェクトは、情報機器を含む一連のシステムを納入し、仕事が出来るようにするものです。国際組織PMIが認定する、PMPという資格制度と、その教科書ないし総合マニュアルとしてのPMBOKが存在します。それとは別に、情報処理技術者の一種としての「プロジェクトマネージャ」という資格制度があります。

 プロジェクトマネージャの仕事は、ある意味でリスクマネジメントです。連絡の不行き届き・理解不徹底・特定部門のリソース不足などから目標達成が遅れたり、目標数字に達しなかったりする「リスク」にすばやく気づいて排除するのがプロジェクトマネージャです。

 幸い、2004年度版PMBOKはすでに日本語訳が市販されています。4年おきに改定されるので、2008年に英語版が改定されて、いくらか経つと日本語版も出ると思われます。

 この本は「作業手順マニュアル」であり、いっさい実例を含みません。専任リスクマネジャーで、体系的な文書や作業計画を作る必要に迫られている(マンパワーはあるがお手本がない)場合には、欠けているところに気づくためのチェックリストとして有効かもしれません。しかし、やる気のないスタッフ、資源・決定権を下ろしてくれない上司、予算や資源の一般的不足、目の前で火のついている特定の具体的問題(具体的人物)などの困難にぶつかっているリスクマネジャーは、読んでもイライラを増幅させるだけなので読まないほうが良いでしょう。

 プロジェクトマネジメントに関する実例集や入門書は数多く出版されています。ただし実例集は業界固有の事情を含むことは当然で、読んでも何を言っているのかさっぱり分からないかもしれません。ただ、人を動かす仕事をしたことのないリスクマネジャーは、この種の入門書を読むと「みんな似たようなところで苦心している」ことがわかって有益でしょう。


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Last-modified: 2008-12-11 (木) 22:19:27 (5617d)