この話に入る前に

GDPやGNIはなにを測るか

  • フローのGDP(国内総生産)やGNI(国民総所得)は、一定期間内の取引額を統計的に測るための概念です。このため、貨幣で買われなかった財やサービスは、GDPやGNIに入りません。例えば次のようなものです。
    • 家事労働
    • 政府が捕捉出来ない地下経済
    • 物々交換された財やサービス
      • 「地域通貨」システムで取引されるものもこれに当たるといっていいでしょう。詳しくは、「地域通貨」をキーワードにして調べてみてください。
    • ただし例外として、持ち家の人が自分自身に払う家賃(帰属家賃)は実際には支払われませんが、推計してGDPやGNIに含めます。

ストックの増減はフローである

  • GNIを計算するためには、生産額から固定資本減耗、つまり減価償却費を差し引きます。生産設備などのストックが古くなり、使えなくなる時期が近づいたことを、一種の支出として評価するのです。手元にお金があっても、もうすぐ設備を買いなおさなければならないとしたら、そのお金を残しておかないと生産をやめなければならなくなりますよね?
  • 手持ちの株・土地が値下がりしたり、預金が返ってこなくなったりしたら、その人の使えるお金は減ります。それはその期間内に起こった、フローの損失です。逆のことが起これば、フローの所得です。ただそれはGNIという統計数字の定義の中に入っていないので、マクロ経済学の教科書の(少なくとも最初のほうの)説明には出てきません。

ストック価格が変わるとなぜフローに影響するか

  • フローはストックではないし、ストックはフローではありません。しかし家計がストックを積み上げるのは、将来使うつもりがあるか、自分は使うつもりはないが子孫に一定額を残したいと望んでいるか、どちらかのはずです。どちらにしても、株価・地価が下がるなどして、積み上げた額が少なくなったのなら、積み増すために現在の消費を減らし、貯蓄を増やそうとするはずです。
  • ストックが目減りしたことは、将来のフロー予測が下がることと連動しているかもしれません。もしそうなら、現在と将来の消費を平均化したいと考える家計や企業は(そう考えるとは限りませんが、そう考えるのが自然でしょう)、やはり消費を減らして貯蓄を増やすはずです。
  • 企業は株主のものですが、株主に利益を上回る配当を出すと、負債が返せなくなるかもしれません(利益や配当はフローです)。企業の経営に関わる株主が一方的にそんなことをしないよう、フローで損失を出すと株主はその期間の配当を受け取れないことになっていますし、フローの状態は正しく利害関係者に開示するよう厳しく求められています。特に金融資産ストックの値下がりはフローの損失としてすぐ認識する時価主義が最近になって徹底され、経営者は賃下げ・解雇などの費用節減で収支のバランスを急いで回復するよう、強いプレッシャーをかけられるようになりました。
  • 以上のような理由で、株や土地そのものはストックなのに、その世界で価格変動が起きると、フローの世界で好況・不況が生じる原因になるのです。

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Last-modified: 2008-12-11 (木) 22:19:28 (5616d)