消費者物価指数 †「物価上昇(下落)」といっても、実際に商品についている値札はその商品の価格を示すだけで、「品物全体の値段」が書いてある値札はありません。「平均する」といっても、人によって買うものも様々ですし、ほとんど取引のないものについた価格と、家賃や主食費といった、平均的家計が多額の支出をしているものの価格を同じウェイトで平均するのもおかしなものです。 総務省は、色々な品物の価格を全国で定期的に調べる「小売物価統計調査」と、典型的な全国数千の家庭に家計簿をつけてもらう「家計調査」を行い、支出額による加重平均を取ることで物価指数を出します。ただし加重平均をとる基準年次は何年かそのままにして、年ごとのデータを比較しやすくします。
構造の転換期 †1948年から2003年まで、消費者物価(持家の帰属家賃を除く総合)の前年比上昇率をグラフにすると、こうなります。 1948年には非常に高かったものがいったんおさまり、1974年にもう一度ピークを迎えていることがわかります。このグラフでは1948年の物価上昇率が大きすぎて他の年同士の差がわかりづらいので、1960年以降のデータだけでもう一度図を描いてみます。 1974年のピークは石油ショックです。それ以前は年率5%程度のインフレがあったのに、石油ショック以降はだんだん下がって80年代後半にゼロ近くなり、いわゆるバブル期にまた少し上がって(家賃も物価指数に影響します)、再びゼロないしデフレに落ちてきているのがわかります。 例えばこの場合、物価に影響を与える経済全体の仕組みが、石油ショックの前と後で変わってしまっているのかもしれません。長期にわたる時系列データを取ると、途中で「構造変化」が起こって、モデルに出てくる係数が変わる可能性があります。 特定の時期だけ1、それ以外の期間で0という「ダミー変数」を作って、その時期だけ生じていた変化を除去することがよく行われます。ただこうした方法で取り扱えるのは、その変化の影響が被説明変数に対して、「定数」として影響していた場合だけです。だって1と0なんですからね。 サンプル数を増やさないと推定結果の有意性が得られませんが、サンプル数を増やすことによって、それに影響していた要因もまた増やすことになってしまうことが多いのです。 構造変化があったかどうかの検定で昔からよく使われるChow Testはstrucchangeというパッケージに収められています。例えば1950年から2000年までのデータを集めて回帰分析を行った結果について、1974年までと1975年以降でモデルの係数は変わっていないといえるかどうか検定する、というものです。しかし最近はもっと一般的に、時系列分析をモデルに組み込むことが多くなって来ました。 ルーカスの批判 †1976年に、ルーカスは大雑把に言って次のような問題提起をしました。
当時までに盛んに構築されていた大型計量モデルは、ラグつき変数(去年の投資額など、時点のずれた時系列データ)を部分的に含んでいるにせよ、重回帰式をたくさん並べて同時並行する意思決定や影響の波及を表現する同時方程式モデルでした。1970年代は激しいインフレが世界的に起こり、2度の石油ショックとそれに対する各国の対策が錯綜する時期でもあり、同時方程式モデルが先を読む力が落ちた時期でもありました。 因果関係を最初から仮定しないで、その変数自体の過去のデータも含め、過去のデータから将来のデータを推定する時系列分析はルーカス批判から比較的影響を受けませんでした。予想は過去のデータから形成される部分が大きいうえ、過去の意思決定にはその時点で得られる情報をすべて使っているので、かえって複雑な同時方程式モデルよりも「前の値+ランダムな変化」というランダムウォークモデルのほうが式の当てはまりが良い、などということも起こりました。 しかし時系列モデルはその性質上、「こういう政策を取ると景気はどうなるのか」といった、意思決定が影響する大きさと経路について、ほとんど何も教えてくれません。 現在では、時系列モデルを(例えば予想変化の影響をモデル化するところだけ)部分的に取り入れた同時方程式モデルが使われています。また構造の推定ばかりでなく、特定の変数間の因果関係(一方通行の影響)や、変化した時点の検出にもモデル構築の目的が広がり、モデルによる未来説明への期待は昔ほどではなくなり、モデルも複雑になっています。 |